某月某日、人間はだいたい人間に傷つけられる。
それも思わぬ瞬間に、どうでもいいようなことをつつかれて面白おかしく批判されたり、バカにされたりするものだ。
このようなぼくでもしょっちゅう起こる。
まず、大事なのはこういう予期せぬ矢が飛んできた時に、まともにそれを素手とかで受け止めちゃだめだ、ということ。
ぼくはそれが昔出来なかったので、まともに受け止めてばかりだった。
それが発端になり、軌道修正出来ないほどのもめ事に発展したこともある。

大事なことの一つ、覚えておいてもらいたいことの一つは、人間は自分も含め完璧じゃないということ。
そして、人間が実は一番恐ろしい存在だという、ある種の、心構えが必要だ。
犬がじゃれるみたいに人間もあまがみをしてくるのだけど、気づかないうちに人は人の痛みに平気で、ある意味、土足で侵入してきたりする生き物でもある。
最初に、人間というものは不完全で、そういうことをやる連中なのだ、と(それは自分も含め)、覚えておくといい。

なので、矢が飛んできたら、逃げるか、避けるか、まずしなさい。
余計なことを考えちゃだめで、面倒が降りかかったら、そこから去る権利くらいは誰にでもある。
そして、「この不完全な人間め」で終わらせるのがいい。
出来た人間は、他人の痛みを人前で掘り起こしたり、第三者に晒すようなバカな真似はしない。
その人間の品位を疑い、なるほど、こういう連中とつきあってる自分こそ一番の馬鹿野郎だ、と笑えばいい。
笑いながら、後退して裏口からさっさと逃げて、さようなら。
それだけのことである。
それが大人というものだ。

間違えてもやっちゃいけないのは、おもしろおかしく生きるに人間たちの受け皿になっちゃだめだ、ということ。
へらへらするな。
自分を大切にしなければならない。ならば、その連中は面倒なやつらだと記憶し、きちんと棲み分けをして、離れるのがベストというものであろう。
自分を大切に、ということを、まず、あなたに言いたい。

先日、物凄く優秀なプランナーの人に会ったら、「いつも辻さんのツイートを寝る前に読んで自分を保って生きている。感謝しています」と言われたのでびっくりした。
大企業の指導的立場にいる人で、素晴らしいモノづくりをされている、若い社員を沢山指導する、ある意味の成功者だったのに。何が悩みなの、と不思議だった。
そんな人でも周囲の軋轢の中で自分を保つのがどれだけ多変か、ということだ。
「いえいえ、あれは自分を励ますための言葉なので、そう言ってもらえると恐縮します」とぼくは大人の返事をしておいた。
でも、役立っているのであれば、よかったね。

だから歩きながら、人間に殺されることもあれば、人間に救われることもありますね、と言っておいた。
人間は間違いなく、人間界の中で生きているので、自分の苦しみの６９％くらいは他人が原因なのである。
お互い不完全な生き物であることをきちんと理解し、ストレスを抱えないために、どうしようもない火の粉がふってきたときにも、雨が降ったり、嵐が来るのと同じようなものだ、と割り切り、そういう時のために心の傘を用意しておくのがいい。
つねに気を緩めず、用心をしておくと、痛手は軽くて済む。
人間、無傷で生きていくこと、は難しいのだと最初から心に置いておくのだ。

ストレスが押し寄せてきた時は、人生の試練が来た、と理解し、回避する方法をまず考える。ただし、逃げてばかりではよくない。
魂の根本を否定されたときは、命がけで闘ってよし。
ぼくは結局、命がけで闘ってばかりだった。笑。今も闘争中。
それでも、この歳でやっと、おかしな連中とまともに向き合わないコツを覚えてきた。
「ありがとうね、いつもありがとう」
と言って、そこを素早く撤退し、二度と近寄らないようにしている。
それでいいんじゃないの？
だって、自分の人生だ。誰に憚る必要があるの？　あるものか。
あわない思想や考えや生き方をしている人はごまんといるわけで、別にそういうものを否定する必要もないけど、かかわらない自由くらいはある。
嘘くさい笑顔の人も大勢いるし、詐欺師や人を踏み台にするのが得意な連中ばかりだから、その匂いを少しでも感じるなら、そこは回避でいい。
ぼくは家族の傍に、あるいは損得の関係のない友人たちのもとに逃げる。

嫌な思いをしたら、それを長引かせては人生がもったいない。
即座に消してしまうのが一番である。
ぼくは家の中に一つ「消えろボタン」というのを作っている。
寝る前に、それをパチンとオフにしてから、ベッドに潜り込むことにしている。
消えろボタンで嫌なことは全て消去し、ふかふかの布団に飛び込んで、ぬくぬく寝ようじゃないか。
明日は新たな気持ちで生きればいい。
人生はつねにあなたのものだ。

※　辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ
Jinsei Tsuji Acoustic Serenade From Paris
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