JINSEI STORIES
リサイクル日記「一人を豊かにする、どんぶり人生」 Posted on 2022/06/21 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、細かく計算しないで、おおまかに金の出し入れをすることを「どんぶり勘定」などという。
「あの人はどんぶり勘定だから」
というのを、よく耳にするし、周囲に、そういわれている人も結構いる。
どんぶり側にすると、いい迷惑な呼び方で、腹立たしいことであろう。
どんぶりをそのように思っているのに、どんぶりを注文しやがって、ということになる。
ぼくは、どんぶりが大好きで、息子が学校に行って、家にいない昼とか、決まって、どんぶり飯にする。
冷蔵庫を覗いて、残った食材で、ちゃちゃちゃっと簡単などんぶりを作るのだけど、これが、実にうまい。
どんぶりに食べられそうな分量のごはんをひいて、その上に、あるものを載せていくのだけど、梅干し、卵焼き、海苔、浅漬けだけの時もある。
でも、どんぶりが小さな宇宙を作ってくれるし、片付けも、どんぶりだけでいいので、便利なのである。
工夫というほどでもないけど、適当にどんぶりを作って、一人で食堂に座ってたべてる父ちゃんは、それはそれで愛おしいものである。←なんのこっちゃ・・・
牛のサガリ肉などを前の日に、味噌漬けにしておいて、それを焼いて、カツオデンブと絡めて、どんぶりにしてよく食べる。
海の幸のカツオデンブと、山の幸の牛肉がせめぎあって、美味いのだ。ひと手間かかるけど、明日の昼は贅沢丼にしよう、と思うと、こういうものが食べたくなる。
カツ丼は必ず、勝負事の前に作って食べることにしている。
「今日は試合に勝つどーん」
という気合い飯でもある。
ちょっと気合いを入れたい時に、ちょうどいい。勝負飯なのである。
息子がバレーボール部だったころは、よく作って試合前に食べさせた。
彼はそれで、パリ大会で金メダルまでとってくるようになった。
カツ丼のおかげなのである。
ぼくは玄米が好きなので、煮卵を前もって作っておいて、どんぶりの中の玄米の上に、ゴマ、紫蘇、鶏ひき肉の炒めもの、あるいは、鯖を解したものを載せて、鮭のフレークでもいい、で、最後に味付け半熟煮卵を置いて、かき混ぜながら食べたりするのが好きなのだ。
これは、うまい。
玄米は噛み応えがあるので、しっかりと噛みしめながら食べる喜びを連れてきてくれる。
ホタテを油につけて一晩おいておくと、翌日、ホタテがやや膨らんで、見事な触感が出る。
これを白ご飯の上に載せて、周囲に塩もみしたういきょうの千切りなどを散らして食べる、ホタテ丼もまた絶品である。
工夫次第で、いろいろなどんぶりを愉しむことが出来る。その時の気分で、気楽にさくさく食べられることも嬉しい。
ああ、お腹が減ってきた。よし、今日は、マグロの漬け丼にしよう!
マグロだが、日本だったら、鮮魚コーナーでマグロの小さめのサクを一つ買っていただきたい。
スーパーの鮮魚コーナー、あれは便利である。フランスはどっちかというと肉屋が多いので、安く買える魚屋はマルシェが出るまで待たないとならない。それに引き換え、日本は島国だから、魚がすぐに手に入る。これは、当たり前のことじゃないのだ。
喜ぶべきことなのである。
ということで、今日は、鮮魚コーナーで買える、マグロのサクを使って作るマグロの漬け丼を皆さんと一緒に作ってみたい。
まずは、完成品からご覧あれ。
次に、材料だ。
メバチ鮪のサク 100g
卵の黄身 ひとつ
葱の千切り 少々
水菜 少々
醤油 大匙2
みりん 大匙2
酒 大匙2
ごま油 数滴
胡麻 ひとつまみ
わさび お好みで
醤油、みりん、酒を1:1:1合わせ、煮きって粗熱をとったところにマグロの切り身を入れて小一時間冷蔵庫で漬ける。
※料理人によっては酒とみりんで煮きってあとで醤油を足す人もいる。そうすると醤油が飛ばない。お好みで。
炊いたご飯をどんぶりに盛り、(酢飯にしても良い)、胡麻をふりかけ、その上に漬けた鮪を並べ、中央に卵を置いて、周辺に水菜や葱を散らし、ごま油数滴を回し掛けて、完成となる。
このままでも美味しいけど、わさびを添えて付けながら食べると、もう、最高なのである。
鯛とかスズキの場合は、かるく、昆布茶をふりかけ、小一時間冷蔵庫で休ませてから、それを適当な大きさにカットして、ちらし丼風に盛って食べてみて頂きたい。
これも、めっちゃうまいのである。
丼勘定はいけないけど、丼飯は日々を豊かにしてくれる。
きっちんりと満腹にしてくれるどんぶりは、一人ぼっちの「あなたを救う飯」なのである。
父ちゃんも救われているのだ。
ありがとう。どんぶり君!
※ 漬けると鮪特有の臭みが消えるので、お子達にも評判がいい。ぜひ、ご家庭で試してもらいたい。