PANORAMA STORIES
コロナ禍のデリーにて思う Posted on 2020/10/17 Tyler ビジネスデザイン プロデューサー インド・ニューデリー
3月22日に世界一厳しいとまで言われたロックダウンが発令されたインド。発令後、タクシーを含むほぼ全ての公共交通がストップ、全ての商業施設、会社が閉鎖され、人々の外出も厳しく制限された。建設途中のマンションは工事が中断されたまま放置され、鳴り止むことのなかったクラクションは聞こえなくなり、活気と熱気で溢れるニューデリーから喧騒が消えた。検査に次ぐ検査で感染者を発見し、とことんトレースして、隔離する。これを徹底し、当初は感染者が出た家にはシールが容赦なく貼られるまでの徹底ぶりだったが、残念ながら、厳しいロックダウンをもってしても、インドのコロナ感染者数の増加を食い止めることはできなかった。
それから半年以上が過ぎた今は経済優先の方針のもと、ショッピングモール、レストラン、ホテルなどは再開していて、人は確実に動き始めるようになった。入店の際に求められる体温チェックや接触確認アプリの提示も、今はとてもルーズになってきたなと感じる。まだ暑い日が続いているため、顎マスクをする人もチラホラ。
日本に住む友人から、インドはどう?そっちはコロナ大変だね! とよく聞かれる。実際感染者の数だけを見ると(落ち着いてきたとはいえ)、一日6万人の新規感染が出ているので、日本にいる人からすれば、心配を通り越してびっくりする数なのは理解できる。日本でもしこの数字が出たら、恐らくまたたくまに自主隔離! 食料確保! と大騒ぎになることは容易に想像がつく。
ただ住んでいる私からすると、もちろん気をつけなくてはならないものの、危険だなと感じることはまず無い。日本のようなコロナ警察ももちろんいないから、閉塞感も全く無い。
13億人の民がいるインドは、まるでヨーロッパのように違う言葉が多く存在し、違う宗教、違う人種、違う文化が混在しているため、私が見ているインドはほんの一部なんだとは思う。ましてや自分が接しているインド人の仕事仲間やパパ友たちと、スラム※2にいるインド人とは同じ国の人?と思うくらい、価値観も生活レベルも何もかも違うのではないだろうか。でもなんとなくではあるが、ダイバーシティが当たり前、という空気が醸し出す開放感が確実にあり、その空気のせいか、多くのインド人は本当に前向きだ。そして、前向きであるが故に、大概自分にも甘く、他人にも寛大だな、と思う。そういうインド人に私自身、とても助かっているのではないかと感謝する時も少なくない。
そんな前向きな国民性は学校現場にも見て取れる。現在インドは世界第2位のコロナ感染国となっており、子供たちは2月末から今に至るまでずっと学校に通えない状況が続いている。2月に休校になるのとほぼ同時にオンライン授業に切り替わり、稼働させながらどんどん軌道修正していくインド流?のスタイルで、新しい学校生活があっという間に確立した。子供たちは感覚的にオンラインツールを使いこなし、ありがたいことにこのコロナ禍においても、それなりに充実した学校生活を送ることができている。とはいえ、もともとパーティー好き、お祭り好き、人と触れ合うことが大好きなインドの子供たちにとって、お友達と会えない、お誕生日会も開けない、自由に外で遊べないこのコロナ禍は、やはり過酷な状況と言わざるを得ない。
それでも最高に楽しい授業をありがとう!と常に先生に感謝の言葉を伝え、もしも10万ルピーを手に入れたら、自分の家族や恵まれない人のために使いたいと言い(息子はtoyが欲しいと書いていた笑)、英語が全く話せない外国人の息子もクラスの一員として温かく迎え入れてくれる、まっすぐで心の優しいインドの子供たち。その子供たちの様子を見ると、インドの未来も明るいのではと感じた。
とにもかくにも子供であれ、大人の社会であれ、はじめから完璧を目指さずに、どんどんアップデートしていくスタイルだから、失敗しても他人をネチネチ責めたりしない。誰もが失敗を恐れずチャレンジしやすい風土がインドには確実にある。
最近日本人がむやみやたらに謝っている光景を目にする。SNSで、記者会見で、いろいろな場面で。もともと謝りがちな日本人であるが、これも失敗を許さない、だめなことを許さない、という日本人特有のルール、文化なのかなとも思う。それに比べ、インドは許す文化があるのかも知れない。
息子が学校で「resilience」という言葉を学んできた。
息子が理解できたのは間違ってもよい、失敗してもよい、ネバーギブアップ! ということだけだったが、それだけで充分だ。
resilience…まさに世界が不安定で不確実になりつつあるこのコロナ禍において、一番大切なことではないだろうか。
貧困、大気汚染、国内の宗教対立、中国との国境地帯の安全保障問題、などなど。課題の多いインドではあるが、コロナを乗り越えていく過程を見守っていきたい。
Posted by Tyler
Tyler
▷記事一覧神奈川県鎌倉市生まれ。ワシントンD.C.育ち。現在、ニューデリー在住。2次の父。