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パリ最新情報「小池都知事へのささやかな提案」 Posted on 2020/08/13 辻 仁成 作家 パリ

飲食店の経営が大変だ、と東京で居酒屋を経営する友人たちからSOSがひっきりなしにパリに届けられている。同じく友人のdancyu植野編集長は「ありがとう袋」というチップ袋を思いつきクラウドファンディングをはじめた。厳しい飲食業界を応援するこの方法は、食いしん坊の彼らしいアイデアである。でも、コロナ禍の中、飲食業の方々を助ける方法は、チップだけではとてもじゃないけどカヴァー出来るものじゃない。一番、現実的なのは、お客が戻ることだ。しかし、感染拡大の中、これは簡単ではない。

パリ最新情報「小池都知事へのささやかな提案」



フランスでは、コロナのせいで多くの店が潰れる、と言われ続けてきたが、実際は厳しい中でもどこもぎりぎり、健闘している。フランス政府はロックダウン直後から店の外、歩道や、路面の駐車スペースにテラス席を設けることを許可した。そのため、道の中にまでテラス席が進出している。とくに感染者が多かったパリでも、外での飲食であれば感染のリスクはかなり減る。もともと、フランスにはテラス文化があった。規制をいっそう緩和することで、席が店の外に出て、客足が戻ることに繋がった。星付きレストランは厳しいが、カフェや普通のレストランでは可能なのだ。実際、客足がかなり戻っている。中にはロックダウン以前より、賑わう店も出てきた。

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日本人の場合、歩道で食事をすることへの抵抗感は強い。ぼくもパリに移り住んだ時、何を好んでフランス人はこんな薄汚い歩道にテーブルを出して食事をするのか、と思ったことがあった。けれども、在仏18年を過ぎたぼくは、歩道のテラス席で食べることに、今までにない解放感を味わうようになってきた。この夏の時期は特に気持ちがいい。

ぼくの実家は福岡市にある。ご存じのように、博多には伝統的に屋台文化が根付いている。外で食べることに抵抗がない。席がぎゅうぎゅうなのが問題だが、その辺は工夫すればいいだけのことである。フランスのテラス席は、行政指導を守って、緩やかなソーシャルディスタンスをとっている。これが功を奏している。高級レストランでもこれを実践するところが出てきた。何より、外なので、密閉されていない安心感がある。博多の屋台文化を東京や全国に広げることが出来たら、日本の飲食業には大きな希望の光りになるのじゃないか…。法律問題もあるだろうが、博多でやれてきたことなので、東京や他の都市でもやれるのじゃないか、と思った。実現できれば、飲食業界の根本的な救済に繋がるかもしれない。パリはその大きなバロメーターになるはずだ。

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福岡市は、屋台の弱点だった衛生の問題を解決するために水道を屋台の場所まで引いた。衛生的になったことで、これまで屋台の食事に懐疑的だった人までをも取り込むことに成功している。かくいうぼくもその一人だ。昔は屋台の水場の不衛生さが気になって、足が伸びなかったが、今は福岡に戻る度に行きつけの屋台に繰り出すようになった。フランスの市場同様、水道が屋台の並ぶ地区に設備されたことの意味は大きい。中洲界隈の行きつけの屋台は、もはやレストランに負けない機動力を備えている。

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東京の飲食店が、即座に歩道に椅子とテーブルを出せるとは思わないが、規制を緩和することは可能かもしれない。今回の感染症パンデミックは収束が見えない。しかし、歩道にテラス席を設けることを試すチャンスはあると思う。感染抑制と経済を回すことの両立を考える時、思いもよらない一手を打っていくしか方法がないのも事実だ。全てのレストランに適応できることでもないので、あくまで歩道に面した路面店だけに限られる策だけれど、何かこういうことが解決の糸口に繋がらないだろうか。この提案が無理だとしても、飲食店に客足を戻すためには、ウイルスを完全に除去する空調開発など、大胆な発想転換が必要かもしれない。歩道にテラス席、これは新しい価値観を連れてくるチャンスかもしれない。

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