JINSEI STORIES
リサイクル日記「フランスの小物、雑貨、はたまたアンティークを探す愉しみ」 Posted on 2022/08/25 辻 仁成 作家 パリ
ぼくは特に趣味のないつまらない男なのだ。
でも、ひそかに燃える愉しみがある。
それが雑貨やアンティークの小物の物色である。
パリだと、ブロカントというガラクタ市がよく立つ。
パリを離れると、どこの村にいっても、だいたい一つや二つ、小さなアンティークショップが営業している。
フランス全土に、時間をもて余したマダムやムッシュたちが趣味で開いたような店がある。
結構いい加減な店も中にはある。というか、ほとんどがそういう感じ・・・。
これで商売が成り立つのかと心配になるような店から、カフェが併設してあって、本格的に収集された商品が陳列された店まで様々で、買わないまでもふらりと立ち寄り、世間話しをして、時にはお茶などすすめられることもあって、人間交流の場であり、趣味の無いぼくには楽しい旅の目的にもなっている。
時間が出来ると、そういう店らしくない小物ショップに、ふらりと立ち寄っては油を売っている。
これが実に楽しいのである。
買うというよりも、見て回ることが目的になったりする。
まさに、ウインドーショッピングに最適な古道具屋、アンティークショップ、小物屋さんなのである。
今まで買い集めたものは、ガラクタみたいなものばかりだけど、家のあちこちにそういうのを並べては、にんまりしている。
うちは築120年の古いアパルトマンなので各部屋に暖炉があり、暖炉の上が、小物美術館みたいになっている。
とある田舎の村で、日本のものばかり置いてあるアンティークショップがあった。
需要があるのか、まず、心配になった。なぜかというと、ウインドーにずらりと並んだこけし・・・。
こけしの側面には「まつしまやー、あー、まつしまやー」と書かれてあった・・・。
店主に訊いたら、なんでも、娘さんが日本で働いているとかで、たまにこういうのを送ってくれるのだとか・・・。
娘さん、このこけし、どこで買い漁ったのか、教えてほしい。
ともかく、世界中からこういうものが集められて展示されているのがフランスのアンティーク屋なのである。
パリにもこの手の店は数多あるけれど、しかし、なぜか、どうでもいいものは地方に集中している。笑。道楽なのかな・・・。
ドゴール将軍の絵とか、いつの時代のものかわからない勲章とか、コインとか、ろうそくたてとか、把手とか、ペーパーナイフとか、銅像とか、拡大鏡とか、銀食器などなど。
今回は買うのを断念したのだけど、このマダムの象は結構悩んだ。
最近、買ったもので一番気に入っているのは、この栓抜き。
実はこれと同じものを持っているので、二つあるとさらに面白くなると思って買った。
ロイヤルコペンハーゲンの60年代の栓抜き、パリだと70ユーロ、一万円くらいだったが、田舎だと20ユーロで購入することが出来た。
つまり、パリだと、都会料金なのであーる。
田舎のこういうどうでもいいようなアンティークショップが愛されるのは、亡くなった方が大事に使っていたものがそのまま、流れてくるからに違いない。
ぼくは、ぜんぜん、気にしないで、そういうものを購入してしまう。
人生はめぐるものだからであーる。
実は、日本に戻った時も、京都とか、箱根とか、上野とか、下北沢とか、金沢などで、こういうアンティーク屋を巡る。
京都はよく物色するけど、パリに持って来たものの中には明治天皇の晩餐会で使われていた小鉢とか、文鎮などもある。
ぼくの仕事机の上やサロンの古いテーブルの上、暖炉の上などに、これらの小物がどんどんたまっていく。
老後に、ぼくがパリにアンティーク屋を開くのも面白いかもしれない、あ、もしくは日本のどこかに、出店して、これを一つ一つ売っていくのも面白い。
今は投資???
買うことの楽しみ、売ることの楽しみ、人と人を繋ぐ道楽なのである。