JINSEI STORIES
滞仏日記「#ぼくはガンガン訴えることにします」 Posted on 2020/06/11 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ぼくは長年、誹謗中傷を受け続けてきたけれど、今まで訴えたことはなかった。離婚した後とか、嘘八百を書かれたけど、バッシング好きなメディアのせいで、反論できる状態じゃなかった。細かいことは想像に任せるけど、サンドバックみたいな時があって、その時、ぼくの小説は全部ゴーストライターがいるだとか、あの小説は辻に依頼されて俺が書いたとか、あの人の子供は本当は私の子だとか、あの子の行く末が心配で眠れないだとか、辻は怪しい信仰にかぶれてるだとか、辻はボトックスしてるだとか、ボトックスだと額が鉄板みたいになるので、その都度、いちいち額を動かしてみせないとならなかった、とか、etc…、ぼろくそに叩かれているタイミングをついて、面白半分のどうでもいい便乗犯がごまんと出た。たしかに隙だらけのぼくにも責任が無いとは言わないけど、限度を超えてデタラメを言っていいはずはないよね。
少し前にも、コンサート会場にギターを持ってきて、飛び入りするように言われたので来ました、とかわけのわからないことを言う女性もいて、スタッフが対応にあたると、当然、矛先がスタッフに向かう。この方の暴言虚言はツイッターでも飛び交うし、その火の粉はスタッフや関係者にも及ぶし、なので、ご家族とも話しをするのだけど、その人たちも手に負えない状態なのだ。警察に訴えますよ、と告げると、暫くはおとなしくなるのだけど、また、時が経つとアカウントを変えて、これの繰り返し…。
また、それとは別の人だけど、ライブの後にスタッフ、関係者の前で襲撃されて負傷したこともある。暫くギターが弾けなかったのだ。一応警察にその人のことを詳しく説明し、被害届を出したけど、ファンの方々を悲しませたくないので、届け出を出した状態にしてある。二度目が起きた時にはその時の訴えが役立つだろう。木村花さんの事件のあと、ちゃんと訴えなかったことが超間接的に花さんのような犠牲者を出すことに繋がったのじゃないか、と思った。訴えてこなかった自分にもきっと少しは責任がある、と考えるようになった。アメリカでは、ハンバーガーショップの紅茶なんかで火傷しそうになっただけで裁判になる。日本は逆で、訴える人が誹謗中傷の的になって訴えられない風潮が長く続いた。「訴え癖のある人」みたいな言われ方をする。しかし、もう気にする必要はない。みんなでどんどん訴えればいいだけのこと。裁判という制度があるのに、日本社会では今までここが蔑ろにされてきた。ぼくがなぜ訴えなかったかと言うとそういう人の多くは心に傷を負っている人が多い、と思ったからで…。でも、そのせいで、こっちが逆に身体や心に傷を負ってしまう。じっさい、訴えずに野放しにしてきたことで、ぼくのスタッフにまで被害が及んでいるし、そういう流れが花さんのような犠牲者を出すことに繋がるわけで、身に覚えのある人は訴えましょう。#ぼくは訴えることにします。身の危険を感じるならば警察に届けるなど、しっかりした対応をとるべきだろう。それを率先してやるべき時が今なのかもしれない。
法治国家なので、法律で結論を出せばいい。それだけのことで、あとは裁判所で会いましょう、でいいんじゃないの。裁判官の皆さんが答えを出してくれるでしょう。
©️Hitonari TSUJI
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