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退屈日記「買い物が楽しい日課だと気が付いて人生が変わる。いいじゃないの~」 Posted on 2021/11/19 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、前は一週間分まとめ買いをしていたのだけど、これは「義務」感が強くて、楽しくなかった。
まとめ買いは重たいし、うちはエレベーターがないので、4階まで古い階段を重い荷物抱えて登らないとならない。
最近「今日食べるものはなるべく今日買いに行く」という新ルールを決めたところ、「散歩」+「買い物」としたことで目的と気晴らしがセットになってヴァリュー感が増した。
ヴァリューセットみたいで、嬉しい。
毎日「楽しみを作る」ということが人生という長期戦においては重要である。
まとめ買いをするのは「時間がないから、面倒だから」という理由が一番だったが、これは言い訳に過ぎない。
ぼくのようなテレワーク人間は外に出る名目が必要で、じゃないとひきこもってしまう。
買い物に散歩やカフェを紐づけすることで自動的に外出の機会も増え、小さな気晴らしが出来るという寸法。
一挙両得というやつだ。
いいじゃないの~。



いつ買い物モードに入ってもいいように、つねに肩掛けバックの中に買い物袋を忍ばせておく。
1ユーロ(130円)くらいで売ってるエコバックだが、便利だ。
フランスのスーパーでは環境に配慮してずっと前からレジ袋が置かれていない。
みんなマイ袋を持って歩いている。
ぼくは趣味で何枚も持っている。
スーパーごとにいろいろと可愛いのがあって…、こういうのが趣味のおじさんって、気持ち悪いですか? 
いいじゃないの~。

退屈日記「買い物が楽しい日課だと気が付いて人生が変わる。いいじゃないの~」

ちなみに、ぼくは各スーパーのポイントカードも持っていて、買い物の途中に取り出しレジの人に渡すと、ピッとやってくれて買った分のポイントが溜まるので幸せ。
モノプリとかフランプリとかビオセボンとかスーパーごとにあるので全部一応持っている。
ぼくはBIO(有機系の)食材をよく買うのでビオセボンのカードは使用率が高い。
300ユーロ使うと10ユーロ引いてくれる。
顔馴染みのレジの青年が、「辻さん、溜まってますよ、どうします?」と訊いてくるので「差し引いてください」と伝える。すると20ユーロの買い物が10ユーロで買えるのだから、嬉しい。
いいじゃないの~。
それだけ使ってるのだけど、チリも積もれば山となる、だ。
こういう日は一日が幸せになりませんか? 
日本滞在中もぼくはスーパー派なので、割引券を集めたりして、次の買い物の時にそれをちゃんと使うようにしている。でも、カードは便利だ。

退屈日記「買い物が楽しい日課だと気が付いて人生が変わる。いいじゃないの~」

日々の買い物の愉しみとしては、エコバック、ポイントカードのほかに、各スーパーごとの特性を掴んだ上での、この食材ならあそこで買おうみたいな、食べたい料理にあわせた買い物を楽しむスーパー・ツアーもある。
たとえばフランス最大のスーパー、モノプリとフランプリでは同じ食材でも置いてあるものが違うので、これを買うならここ、という消費者心理が働く。
これがやはりスーパーによってはぜんぜん違う。
大きいスーパーはなんでも置いてあるので探すのが大変で、品数が多い分、極めるにはお金と時間がかかる。
逆に、小さいスーパーは厳選されているので、一つ一つのクオリティが高い。
ワインなんかは仲間のワイン屋で蘊蓄聞きながら買うこともあるけれど、スーパーワインは侮れない。
大量で仕入れることで安く売ってるし、スーパーにしか降りてこない、ワイン業界とスーパーとの癒着特典をかぎ分けるのが主夫の醍醐味のその2。
店ごとに白ワインでも収集の仕方に個性が出ているので、白だったらスーパー・コクシネルのモンティニー、フランプリのアリゴテとか、買い分けている。
赤ならあそこ、ロゼならあそこ。
いいじゃないの~。

チーズも生ハムも店によって仕入れの個性があるので、一店舗でまとめ買いをするのは大損となる。
梯子酒が楽しいのと一緒で梯子スーパーは主夫の醍醐味のその3である。
ビオセボンの有機系の白でオスカーというのが6ユーロちょっとであるのだが、味は12ユーロ級の美味さで、そういうものを狙い買いするのも主夫の愉しみの一つ。
日本滞在中も、ぼくは自炊なので、各スーパー&コンビニを梯子している。
当然でしょ、と言わせてもらいたい、これが美味しい生活の基本だからである。
はい、いいじゃないの~。



それから、モノプリなど大型店に行くと、サービス品がお買い得で、これを物色するのが楽しい。
二個目はタダみたいなシステムが結構あって、目の色が変わる。ぼくはフランスマダムを押しのけてその奪い合いに突入することに…。
いいじゃないの~。普通じゃないの~。
とても日本では見せられない姿なので、周囲に日本人がいないことを確認してからつっこむ。
勝ち取った肉を使ってローストビーフなどを作りながら、8ユーロでゲットしたんだもんねー、とほくそ笑んでいる自分が愛おしいのである。
いいじゃないの~。

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