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滞仏日記「東京アラートがエコーズの曲名みたいで思わず拳を振り上げた」 Posted on 2020/06/03 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「東京アラート」が発動された。レインボーブリッジと都庁が赤くライトアップされた、というニュースを読んで、何が起こったのか、と慌てて記事を読んだのだけど、感染者が急に増えたので注意喚起のようなことをした、ということ以外、よくわからなかった。「危機感を持って警戒しながら感染拡大を防止し、経済活動との両立を訴えている」ような印象は受けたが、…。東京アラートというネーミングから、写真家のアラーキーの東京慕情を思い出した。いろいろ批判はあるだろうけど、まぁ、気を付けろ、ということを最大限伝えたくて、赤いライティングとこういうネーミングにしたのだろう。「東京アラートの発動を宣言した」とあったけど、こういうところが日本的だった。でも、クラスターは出ると思う、普通に。これからもずっと、新型コロナウイルスは消えない。緊急事態宣言が解除になったのだから、当然、クラスター出ると思っている、と思ってた。このくらいのクラスターはこれからも続くと誰もが思っていると思っていた。そういう意味じゃ、クラスターは想定内だが、経済が回らなくなると想定外になる。ぼくが今、一番、心配しているのは、あまりに神経質にみんながなりすぎて、感染者を差別する秘密警察っぽい社会になって、経済が回らなくなってそっちで死ぬ人が出ないか、ということだ。倒産した会社が200社出たと聞いた。今以上に苦しい状態に置かれる人が大勢出ないか、という心配、もっと言えば国が崩壊してしまうかもしれないという心配。クラスターは続くし、コロナは消えない、と大きな声で叫びたい。本当に、他に方法はないのだということで、罹りたくない人は、自衛するしかないのだ。自衛は出来る。

滞仏日記「東京アラートがエコーズの曲名みたいで思わず拳を振り上げた」



フランスもロックダウン解除後、物凄い数のクラスターが出ている。しかし、みんな、想定内だった。気を付ける人は自衛している。今日はカフェの再開の日で、パリはテラス席しか認められてないのに、店舗面積に負けない規模で路上に椅子とテーブルが並べられた。信じられないくらいの人出となった。政府は警戒を呼び掛けているけど、これはもうフランスに限らず、市民を家に閉じ込めることは不可能だと分かってきた。フランスのGDPが11%も減衰したフランスでこれ以上経済を回さないのは危険である。なので、仏政府はクラスターが発生すると、即PCR検査からの即隔離を徹底している。日本も同じことをしているようだけど、それしか手はないと思う。正直、新型コロナは暫く地球上から消えないので、「そばにいるなあいつら」と思いながら、経済を回して行くしかないのである。たしかに怖い病気だけど、きちんと相手を知り恐れていけば、なんとかなる。感染症と経済の両立を目指す、ということだろう。それが「東京アラート」のキャッチコピーが言いたいことなのかもしれない。この写真を見てほしい。これは小さなレストランだけど、車の駐車スペースいっぱい椅子とテーブルを出して、最大限稼ぐ気でいる。昼間は満席だった。こういう努力をバカに出来ないし、応援したくなる。経済はそうやって回せるものだと思う。みんな食べる前はマスク、食べ終わったら手を消毒していた。

滞仏日記「東京アラートがエコーズの曲名みたいで思わず拳を振り上げた」

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ぼくは今日、知り合いのカフェを梯子した。みんな店を潰さないために、ピザの販売をしたり、テラスメニューを考えたり、頑張っていた。もちろん、感染するのが怖いから、ぼくも最大限の注意を払った。店側もものすごく神経質にやっている。感染者を出すわけにはいかないからだ。ギャルソンのアントワンヌも、バーマンのロマンも、関係ないけど肉屋のロジャーも、30度の真夏日なのに、みんなマスクやフェイスシールドで頑張っていた。

滞仏日記「東京アラートがエコーズの曲名みたいで思わず拳を振り上げた」

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でも経済を再生させるぞというエネルギーに溢れていた。再開できたという希望がパリ中に漲っていた。フランスはロックダウン解除後、だいたい百か所くらいでクラスターが出ているのだ。でも、PCR検査と隔離で抑え込んでいる。今のところ第二波は来てない。ある程度の回避方法を持ったから、ある程度の抑え込みは出来るのじゃないか、と思う。警戒しながら、経済を回さないとフランスが潰れてしまう。日本だって、潰れてしまう。綺麗さっぱり収束というのは何年もかかるし、見えないので、完璧は目指さない。今は綱渡りをしながら、だましだまし、渡り続けるしかない時期であろう。

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