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リサイクル日記「フランスで学んだ、質素な、でも素敵な暮らし方」 Posted on 2022/06/30 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、暮らしにこだわるようになったのは、シングルファザーになってからである。
それまで、ぼくの人生は仕事、創作が中心だった。
もちろん、子育ても家事も昔からやっていたけれど、息子を育てることを託されてから、より僕の人生は、暮らしをその中心に添えるようになった。
これは大変だけど、でも、やりがいのある立派な人生の仕事だと思う。
「息子ファースト」という言葉を作った。それを実践してきた。
離婚当時、息子は10歳になったばかりの小学校だったので、仕事を中心にしていたらこの子を育てられないと気が付いた。
もちろん、葛藤もあった、映画の仕事を断り、連載を断り、最低限の収入で回そうと考えた。
けれども結果から言うと、暮らし中心の生き方を体得出来たことが、或いは生活を死守するという生き様が、ぼくに生きるハリ、希望、夢を与えてくれたのだ。

リサイクル日記「フランスで学んだ、質素な、でも素敵な暮らし方」

※上の階の若いカップルからもらったマーマレード、南仏のおばあちゃんが作ったものらしい。
これがグミのような触感で、絶品だった。
おばあちゃんの愛を手渡されて感動のマーマレードであった。
貰って嬉しいものをあげる、って、素敵だね~。



同時に、ぼくは暮らし上手なフランス人のパパ友、ママ友たちから生活や暮らしのヒントを授かることになった。
息子が生きる世界はフランスなので、当然と言えば当然だった。
息子ファーストを誓ったぼくには彼らのライフスタイルは大きな参考となった。
食べること、
着ること、
家具の選び方、
生活習慣、
その他、もろもろ・・・。

彼ら、フランス人の買い物の仕方、献立の決め方、食材の選び方、友だちとの付き合い方、週末の過ごし方、お酒のたしなみ方、人間付き合いの仕方、喧嘩の仕方、あげたらきりがないが、どの観点もユニークで面白かったし、ぼくには衝撃的なことも少なくなかった。
フランス人はけっこう、絶交が好きで、一度絶交すると2度と復縁はない、とか、((´∀`))ケラケラ。
日本人だったら、こうするところを、なんでこうやる? みたいなこともあり、微笑みを誘われることしばしばだけれど、日仏の暮らしの差を見つめながら、ぼくはぼくなりの生き方を見つけることが出来てきた。それはいい人生経験と勉強になっている。日本とフランス両方を知ることで、視野が広がったのは事実だ。

リサイクル日記「フランスで学んだ、質素な、でも素敵な暮らし方」

※ワイン箱を集めている。こうやって使うとおしゃれだし、好きなワインのことを忘れないでいい。
ぼくは箱好きなので、我が家は箱の宝庫がある。息子に、パパ、箱捨てようと、家が狭くなる、と怒られたこともある。自慢。ぼくは、現代の箱男なのであーる。



たとえば彼らは意外に粗食なのだ。
お招きされても豪華なものはまず、出てこない。
お金持ちの家に行けば行くほど、出てくる料理は質素になる。
これかい、と驚くくらい、中身には力をいれない。でも、いいもてなし方はする。
ナポレオンの末裔という由緒ある家に遊びに行くと、お手伝いさんが作ったチキンの煮込みが出てきた。
ご馳走になっていて、文句は言えないけど、屋敷に住んでいて、大きな、豪華なお皿に、鳥の足がぽんとおかれ、甘いソースがうっすらとかかっていた。
((´∀`))ケラケラ。
前菜は無し、それがメインで、デザートは忘れたけど、ともかくそんなもので、とくに何を食べたか思い出せないような4時間だった。
そう、これで、4時間、ずっと話し続けるのだから、ある意味、素晴らしい。
ぼくだったら10皿くらい、あれこれ、出さないと気が済まない。
そんなことは滅多にない。

でも、どこへ行ってもだいたいそんな感じだ。オリーブでもつまんで、アペリティフに二時間くらいだらだらと会話して盛り上がり、チキンの煮込みを食べたら、解散みたいな。
それでいいんだ、と気が付いた。
ぼくなんかいつも命がけで作っていたけど、それは逆に客人を疲れさせていたかもしれない。
アジア人の家に招かれると食べきれない量が出されて残されてこそのお招きみたいな感じになるが、フランス人たちの質素な交流は、それはそれで気疲れしないで楽ちんなのであーる。
ま、どっちも素敵なので、ぼくはその時の自分の気持ちに委ねるようにしている。

リサイクル日記「フランスで学んだ、質素な、でも素敵な暮らし方」



普通のママ友もパパ友もいつもだいたい同じものを着ている。
実は、おしゃれなフランス人たち、あまりたくさん服を持ってない。
好きなものばかり着ている印象があるし、だいたい同じような色味、素材の服なので、100メートル離れていてもすぐに誰だか、わかる。
いいものを買ってそればかり大事に着ている人が多い。
あと、若い娘さんはお母さんのお古を大事に着まわしている。
古いブランドの服を現代に蘇らせる天才かもしれない。いいものを大事に着て、自分の匂いや青春が染み込んだお古を娘に譲る伝統的風習なので、だからこそ、買う時は一点豪華主義でみんな結構いいものを買っている。
ぼくも気に入っていたコートを息子に譲った。
昨日、息子に、大好きだった革ジャンをあげた。めっちゃ喜んでくれた。
痩せて小さくなったぼくには、もうぶかぶかなのである。
彼はパパの古着を喜んでいる。
これは、親冥利につきる・・・。
((´∀`))ケラケラ。
それを着ている息子を見ると、嬉しくなる。
息子だって、嫌なものは欲しがらない。だから、いいものを買って、長く大事に着て、それを譲るからこそ、本人も大事にする、という正しい循環。

リサイクル日記「フランスで学んだ、質素な、でも素敵な暮らし方」



だからなのか、フランスは日本以上に物々交換的な、家具や服でも捨てない文化があり、新品じゃないものへの眼差しも優しい。
日本だと断捨離という文化があるけれど、不必要なものは持たないので、フランスの人たちは捨てるものもない、みたいな暮らしなのだ。
ぼくは実は洋服をたくさん持っている。
でも、友人のRの家に招かれて、数着しか服がないので、びっくりした。
その奥さんもぼくの半分くらいだった。
あれから、ぼくも服を買わなくなった。
最後に買った日が思い出せないくらい。
逆に、息子なんかに買ってあげることの方が楽しい。
自分はいつも好きな服だけ着て安心感を得ている。
そうだ、暮らしは安心が一番だ。暮らし日記はそういう着眼で、フランスを眺めては、記していくことにする。

リサイクル日記「フランスで学んだ、質素な、でも素敵な暮らし方」



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