PANORAMA STORIES

友人が話してくれたこと Posted on 2020/05/04 マント フミ子 修復家 パリ

電話口にでた友人は、落ち着いたトーンで、彼女が過ごしたこのひと月のことを話してくれました。

まだフランスで感染者がほとんどいなかった3月上旬、出張で海外にいた友人の元に旦那さまから風邪を引いたと連絡があったこと、一度良くなって、でもまた調子が悪くなったこと、コロナに感染していたこと、症状のこと、なかなかその症状が治らず、入院することになったこと、入院中は会えなかったこと、容体が急変して救急治療室へ入ったこと、薬漬けになってしまったこと、病院から覚悟をしてくださいと言われたこと、人工呼吸器を外したこと、防御服を着て面会できたこと、面会中に話したこと、毎日5km先の病院まで歩いて通ったこと、目を背けていた葬儀屋に入った時のこと、最後の日に話したこと、その日が来てしまったこと、最期のお別れをしたこと、病院の人がとても心ある対応をしてくれたこと、遺品がもらえたこと、自分は感染しなかったこと、この状況でも近所の人に助けられたこと、彼の衣類を片付け始めてしまったこと、何もやる気が起きない日があること、彼に守られていたと感じたこと、遺影の写真を撮った時のこと、今、自分が歩いている散歩コースのこと・・・。

友人が話してくれたこと



淡々と一部始終を話してくれた友人は、最後に、2月末、彼はたくさんの人に会っていたの。いつか、別れの日が来ることはわかっていたけれど、たった3週間で、急にその時が来るとは想像もしていなかった。後悔をしても仕方ないけれど。もう、コロナの被害者はうちの夫で十分。悲しい想いをするのは私だけで十分。とにかく、みんな健康でいましょう。と言いました。

3月上旬といえば、フランスでの感染者はまだ423人、死者は7人でした(3月5日)。まだ一部の地域でのみの感染と考えられており、私自身も、新型コロナはまだ、どこか対岸の火事という意識でしかなかった頃です。だけど、ウイルスはすぐそこにまで滲み寄っていたのです。知らなかっただけ。それから2ヶ月、外出制限令が出てから7週間経った今、フランスでの感染者は13万人を超え、死者は24895人(5月3日)に上りました。まだ、いまだに、毎日100〜200人以上の人が亡くなられているのです。

友人の旦那さまが駅前のカフェのカウンターでエスプレッソを飲んでいた姿を思い出します。画家だった彼は病室で、早く新しい作品を描きたいと言っていたそうです。どんな作品だったのでしょう。友人宅の、旦那さまの仕事部屋はひと月前のまま。今すぐにでも絵が描けるよう、筆がきれいに並べられているそうです。

友人が話してくれたこと



Posted by マント フミ子

マント フミ子

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Mante Fumiko
修復家。岡山県出身。在仏30年。フランスに暮らしはじめ、アンティークの素晴らしさに気づく。元オークション会社勤務。現在はパリとパリ郊外の自宅にて家具やアンティーク品の修復をしている。