PANORAMA STORIES
医療に従事される方々へ食事を届けたい。 Posted on 2020/04/25 Sakura FRANCK シェフ パリ
医療に従事される方々へ感謝と励ましの気持ちを込めて食事を届けたい。
そんな思いでスタートしたパリ市内近郊の病院へお食事を届けるボランティアが続く日々です。
3月14日夜、突然の「営業停止令」が、そして翌々日16日月曜日には17日火曜日の正午からの「外出制限令」が発表されました。突然、人生の幕を降ろされたようなショック。そして諦め。そんな気持ちが少し落ち着いて、最初に思ったことは「ご高齢の方やお身体不自由な方はお買物や毎日のお食事作りが大変だろうな」ということ。そして、「病院で働く方々は食堂が閉まってお食事に困るだろうな」ということでした。
すぐに近所に住むご高齢の方達に「もし困っていたらお買物に代わりに行くし、温かいお食事を届けます。私はあなたよりちょびっとだけ若いし、元気だから。品物はお家のドアの前に置いていくから、私とは接触はないから、心配しないで!」というメッセージを送りました。
それと同時に、医療関係に知り合いがいそうな友人達やドクター達に「ボランティアで、完全に無料で、医療従事者にお食事を届けることがやりたい」という旨を電話やメールで伝えました。
いくつかの病院関係者から返信をもらったのですが、「外出制限がある中でどうやって食事を届けるか、どうやって病院内に入るのか」等のところで話がややこしくなり、最初はほとんどの病院との話が立ち消えになりました。周囲にご希望の病院関係者がいないかを尋ね続けながら、自分のほうの準備〜病院への配達や許可に関してどういった証明や書類が必要なのか〜を進めていたある日、友人の1人を通じて5区にある病院の看護師さんとコンタクトを取ることが出来ました。
「私は6区で日仏フュージョン料理のレストランオーナーシェフをしています。病院で働く皆さんにお食事を届けたいのですが、人数やご希望の回数、時間帯をおしえてください!」
そんな私のメッセージに対し看護師さんから「嬉しい!是非お願いします!」と直ぐにお返事があり、準備していた配達に必要な書類にサインをしてもらい、翌々日から配達が始りました。最初に「ボランティアでお食事を届けます!」とあちこちに連絡してから2週間が経っていました。
その後、友人知人を通して、あちこちの病院で働く方々からの様々な声が届くようになりました。
「緊急病棟、コロナ対策チームの人たちは、マスクも服も何でもある。私たちは、何もないから、私たちのほうが危険じゃないかと感じている」
「昨夜、病院にマスクが山ほど届く夢をみたの。私は子どもみたいに、飛び上がって声を上げて喜んだ。わー、マスクが来たよ!って」
「大きな有名な病院にはシェフ達からの食事が届くけど、うちみたいなマイナーな病院にな誰も目を向けてくれない」
「疲れて家に戻っても、子どもに触ることが出来ない。感染させるのが怖くて。離れて暮らそうかと悩んでる」
「コロナ対策チームには、沢山の差入れがあるのを、毎日横目で見てる。うちのチームだって、結局、コロナの患者さんも来るのに」
陽の当たらない場所で、日夜、必死で働いている人たちの、小さな悲鳴のような声が聴こえてくる。
その度に、もし私で役に立てるのなら、と食事提供を申し出て、パリ市内近郊合わせて4つの病院への食事を配達する事になりました。
この「ボランティア」をスタートするとき、私の中で決めたことがあります。
ー これをやることによって万が一にでも感染を広げることになったら本末転倒なので、調理は自分の店で完全に1人でやる。
ー 出来る範囲内で、自分のお金でやる。寄付を受け取り始めたらキリがなくなるし、収支報告をする時間もない。色々と責任が持てなくなる可能性があるので受け取らない。
ー 配達先の病院、医療従事者に対して、何も求めない。写真やお礼やうちの店の宣伝など、私のメリットになるようなことは何一ついらないと最初に断る。
私が勝手に始めたボランティアですので、当初は公表する予定はありませんでした。「出来る範囲内で、1人で静かにやっていこう」と思っていました。
しかし、日を追うごとに流通の滞りやコストの問題などが予想以上に膨らみ、食材卸業や関係者の皆様にご協力を仰ぐこととなりました。食品関係の会社は皆、大変な時期ですので、出来るだけ負担にならないように「賞味期限切れ間近の食材」「売れ残った食材」などの提供をお願いし、助けていただいています。
そんな日々を送る中で、この活動に共感してくださる方達からお褒めの言葉をいただく機会が増えてきています。看護師さん達からお医者さん達からも、お礼を言われます。
でも、私はこの状況の中で、出来ることを出来る範囲でやっている、安全な場所でいつものように料理を作っている、ただそれだけです。
称えられるべきは、最前線で戦っている医療従事者です。
“ほんの少しでも力になれたら”
不安が溢れ出しそうな状況の中で、ささやかでも役に立つことを、何か一つでも出来るといいなと思って、今日もご飯を作っています。
Posted by Sakura FRANCK
Sakura FRANCK
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パリの料理学校卒業後、Le Doyen (Paris), Hôtel Majestc (Cannes) を経て、2002年よりフランス国立料理学校講師を務める。 2004年よりコンサルタントとしてフランス国内をはじめヨーロッパやアフリカ、アジア各国での飲食店の立上げや技術指導、メニュー開発に関わる。2009年パリ6区に日仏料理レストラン «Sous les Cerisiers ス・レ・スリジエ 桜の木々の下で»を開店。 オーナーシェフとして厨房に立つ傍ら、日本酒や日本茶の普及セミナーを開催するなど精力的に活動中。