JINSEI STORIES
退屈日記「今朝、スッキリで言い足りなくてスッキリしなかったこと」 Posted on 2020/04/15 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、また、スッキリに電話生出演した。前日にオファーがあったのだけど、ロックダウンでなんも予定もないので~、とお受けした。フランス人のストレスについて訊かれ、ストレスならぼくもひどいんですよ、と答えたのだけど、外出できないので、こういう形でも日本と繋がれるとちょっと安心する。でも、やっぱり語り足りない。それと、本番までずっとスタジオのやり取りを聞いているわけだが、(20分くらい)、ああ、日本は今、そういう状況なんだな、というのがよくわかるのだけど、危機感というのか、たぶん、当然だが、まだ切迫感を感じない。メディアが少し誘導するような感じで、危機感をけん引している印象があり、人々は不安なので、情報収集的に番組を観ている状態なのかなぁ。
ロックダウンをして4週間が過ぎ、さらにロックダウンが4週間続く今のフランスは間違いなく山場にある。番組で言ったように、「集中治療室にいる人の数」をつねにフランスでは議論している。ロックダウンをなぜするのかというと、最終的には死亡者数を減らすことだけど、まず大事なのは、医療崩壊を防ぐために集中治療室にいる人の数を減らさないとならない。フランスのお医者さんが最初の頃、テレビに向かって訴えていた。「いきなり100人が病院に運ばれてきたら、ぼくらはどうすることも出来ないが、10人だったら対応できるんだ」つまり、亡くなる人はほぼ集中治療室を通過する。ここがうまく対応できれば、死者数を減らすことに繋がる。死者数を減らすことが最終目標だけど、そのためには集中治療室にいる人を減らすことが大事ということである。集中治療室に人が増えると病床が足りなくなり、そこに付き添う看護師や医師のみならず人工呼吸器までもが足りなくなる。フランスはこの集中治療室にいる人の数がここのところずっと横ばい、7000人前後を推移し、ここに来て減少に転じ、昨日は6500人にまで減った。これにつられ、病院での死亡者数は半減した。(しかし、高齢者施設で多くの死者が出ている)それでも人口が日本の半分のフランスには日本よりもかなり多くの集中治療病床があった。感染者数や死者数より、現場で見ているぼくが一番警告したいのは、日本の集中治療室の数だ。圧倒的に足りなくなれば、自宅で待機する人も増え、この病は20分で急変したりするので、危険度が増す。日本にドイツ(当初、集中治療病床が25000床。人口は日本の約半分)並みに集中治療室があるならば、ぼくはここまで不安にならない。そのためにはもっとみんなが一丸となって、本当に気を付けるしかない。
日本の友だちや知り合いから、「フランスは大変ですね、4週間も延長になって、可哀想。早く日本に戻っておいで」という心配メールが本当に毎日のように届くのだけど、ぼくは、4週間ロックダウンが延長になったフランスの自宅にいる方が安全だと思っている。というのは、危機感が足りないことの方が怖い。日本から届く吉祥寺の賑わいの写真を見ると、動悸が激しくなる。日本は数字的にみると、フランスのほぼ4週間前にいる。日本の緊急事態宣言は新型コロナの抜け道をものすごく残している。あの状態だと8割家にいてください、と正論言われても、国民は何を基準に家にいればいいのか、わかりにくい。人との接触を8割減らしたいけど、スッキリしないよね。フランスでは、ロックダウンのおかげで8割以上の人の行動が制限されて、効果が出てきた。ぼくが思うに、ロックダウンが始まってから、9割以上が家に居るんじゃないか、と思う。ともかく、フランスは死者が178人の時(4週間前)にロックダウンをしているのにもかかわらず、医療飽和のギリギリを維持しなくてはならなかった。亡くなったお医者さんも多い。今自分の身を守れるのは自分だと気が付くことが命を守る一番の方法であり、国難を乗り切る力にもなる。これからも、ここフランスで見ていることを本音で書かせていただきます。加藤さん、次回は、もう二分喋らせてくださいね。
※社会的距離をとって語り合う3人。5メートルくらいあけて用心している人もいる。今はみんなこんな感じなのである。