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退屈日記「外出制限下で家族の絆を作る。家で出来ることはたくさんある」 Posted on 2020/04/07 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ロックダウン下では家庭内暴力が増えたり、夫婦間の仲が冷え込んだりするので、気を付けないとならない。ぼくは逆にこの厳しい制限下で父子の絆を強くすることは出来ないかと考え、いろいろなことを試すことになる。以前の日記でも書いたが、このロックダウンの生活をぼくは火星旅行の船内活動にたとえて息子に説明をした。ぼくらにはミッションがあるのだから、今は船内に閉じこもって、健康や精神面での管理を徹底し、来るべく火星到着の日を待とうというのである。

もちろん、うちの子は16歳なので、そういう子供だましが効く年齢ではない。でも、子を思う親の気持ちが分からない子ではない。一日一時間一キロ以内のスポーツは許可されているのでぼくは息子を外に連れ出し、ジョギングをはじめた。ロックダウンにならなければきっと息子は僕と一緒に走ってはくれなかっただろう。子供部屋から出ないのはよくない、パパがお前をガードしてやるから安心して外で運動をしなさい、と説得し走ることになった。身体を動かすと笑顔が自然に出てくるものだ。

退屈日記「外出制限下で家族の絆を作る。家で出来ることはたくさんある」



ロックダウン生活が3週間目に突入したパリで生きる辻父子、家から出ないで、仲良く乗り切るためにぼくは様々な知恵を絞った。その一つに料理教室がある。大事なのはレシピを教えることじゃない。作ってみたいというモチベーションを自由に広げてあげることの方がもっと大事だったりする。ご飯一緒にやろうよ、暇だし、と誘ったところ、パパ、ぼくはインドカレーを前から作りたかったんだよ、と言い出した。そこで、息子の大好きな仏人ユーチューバー(ジグメさん)の動画を二人でチェックすることからはじめた。時間は湯水のようにあるので、最高のインドカレーを作ることを一日のも目標にするのである。

退屈日記「外出制限下で家族の絆を作る。家で出来ることはたくさんある」

最初の夜はカットした鶏肉をヨーグルトに漬け込みマリネした。包丁の持ち方、鶏肉の切り方、マリネの仕方などを教える。甘やかさないで専門的に教えてあげる方が逆に子供を本気にさせる。時には厳しさも大事だし、時には笑顔も必要となる。何より、楽しんで料理をすることが親子の絆を深めることに繋がる。そして、料理をしながら世間話し、コロナの話しでもいい、会えない友だちたちとどういうやりとりをしているのか、などの会話を通して、子供の精神状態を探ることも出来るという仕組み。塩胡椒した鶏肉に、ヨーグルト、スパイス各種(ガラムマサラ、カレー粉、ターメリック、コリアンダー、など適当に)、を入れてよく混ぜ、冷蔵庫で一晩か二晩寝かせる。なぜ、寝かせる必要があるのかなどを説明する。美味しくなーれ、の魔法も忘れてはならない。これはうちの子が幼かった時によく教えていた言葉だ。子供は忘れちゃいない。二人の間に流れた時間が親子の絆を強くする。

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冷蔵庫でマリネされた状態のお肉を二人でチェックする。すでに美味しそうだ、と息子は喜んでいる。ユーチューバーのレシピなどもう関係なくなって、自分たちのやり方を追求し始めている。家族間に愉しみが増える。まず、マリナードされたチキンを炒める。その時の息子の横顔は笑顔だ。塞ぎがちな子供たちの心を解放させるのに、料理はとっても素晴らしい方法となる。

玉ねぎ、にんにく、生姜を炒め、ここにも好きなスパイスをくわえる。完成を想像させることが実は料理のコツで、一緒に食べたいインドカレーのイメージを徹底的に話し合うべし。そうやって生まれてくる具体的な完成形がぼくたちの到達地点ということになる。そこでぼくらは議論し合ってから、トマト缶を投入した。こういう発想が、一体感を生むのだ。ハンドミキサーの使い方を教え、ボウルに移した野菜をブレンドした。美味しそうなソースの香りがキッチンを満たす。さりげなく導いてやることが大事だ。子供にも子供なりのプライドがあるので、ちゃんと褒めるところは褒める。彼が出来なくても手を出しちゃいけない。よっぽどやばいことになった時だけ、さりげなく、注意する程度。自分で作らせることが大きな達成感を与えることになるからだ。そういうものは間違いなく、美味い!

退屈日記「外出制限下で家族の絆を作る。家で出来ることはたくさんある」

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肉を再び炒め、そこに出来たソースをかけ、さらに煮込んでいく。いい匂いだ。もちろん、二人で味見をする。お互いの顔を見合わせる、当然、満面の笑みになっている。さ、食べよう。二人で皿に盛る。
「パパ、待って。大きな器に入れて、自分たちで食べられる分だけ取り分けることにしよう。食べ残したらもったいない」
これである。こういうことを子供に言わせたかったのだ。食べ物を余さず綺麗に食べきる時、キッチンの神様は微笑むのだから。ロックダウン生活の中で、父子の絆は確実に強くなった。必ず火星に到着してみせる。

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