PANORAMA STORIES
オランダ、パンデミックの中心で Posted on 2020/03/20 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム
つい1ヶ月ほど前まで、オランダの人々は例年のように訪れるイースター休暇の予定の最終確認に余念がなかった。チューリップで有名なキューケンコフ公園も開園準備のカウントダウンを開始し、4月の国王誕生日をはさむ大型連休をどのように過ごすか、友達と会えばそんな話をするのが恒例だった。
それがこの数週間、いや数日で状況は一気に変わってしまった。中国で始まった新型コロナウイルス感染。誤解を恐れずに言えば、当初オランダの人々は”アジアで広がりつつある新種のウイルス”程度の認識で、遠い東方の国々の問題だろうとたかをくくっていた感がある。
ところがこの目に見えないウイルスという敵は、イタリアでの多数感染を機に、所構わず目まぐるしい勢いで自らの土地を侵食し始めたのだ。WHOテドロス事務局長をして”今やパンデミックの中心地はヨーロッパ”という刻印を押された時には、感染者、そして死亡者はうなぎのぼりに急増し、もはや誰の手にも抑えられるものではない脅威に膨らんでしまっていた。
ヨーロッパ各国が必死に臨戦態勢で臨むなか、オランダも3月15日18時より4月6日まで、基本的にスーパーや薬局などの生活に必須な施設を除き、すべての営業が停止され、学校も閉鎖された。ただ、医療・警察・公共機関・消防などに勤務する親の子供達は無料で学校や託児所の受け入れが手配され、授業はオンラインに切り替えて継続されるという。
16日19時からはオランダのルッテ首相が、テレビで新型コロナウイルスに対する政府の施策を説明した。首相がテレビにてスピーチを行うのは、1973年の石油危機に際し当時のデン・アイル首相が初めて行って以来のこととなる。
結論から言うと、オランダは人口の大部分の人をウイルスに感染させる集団免疫を獲得することで、低リスクグループでのウイルス拡散スピードを抑制し、医療システムの崩壊を防ぐというシナリオを実行するとのこと。いったんウイルスに感染した人が免疫力を持つことで、高齢者や健康に問題がある人の防護壁のように機能するという理論らしい。
したがってオランダ政府は現状のところ、これ以上のロックダウン(外出禁止令や無期限に国を鎖国状態にすること)は視野に入れていないという。一方、時を同じくしてフランスではマクロン大統領が外出禁止令を発動するアナウンスをしていた。
これにはもちろん様々な意見があるだろう。オランダ政府は少し前には学校閉鎖も考えていないと発言していたので、政策が変更になることも大いにありえる話だ。
残念ながら他の国と同じようにオランダでもトイレットペーパーやハンドソープ、保存可能な食品などの買い占めも起きている。確かに迷惑な話だ。その日その日を一所懸命に生きている人のことを考えるといたたまれない。でも同時に私にはそれを頭ごなしに非難することは出来ない。地球には様々な環境、肉体のコンディション、精神的な問題を抱えた人がいる。国も民族も関係ない。もし自分に少しでも余裕があるのなら、今はネガティヴな問題を探し出して目くじらをたてるのではなく、深呼吸をして状況が好転するように自分にできる行動をしたいと思う。
私の住んでいるアムステルダム中心地はここ数年観光客が激増していたこともあり、この数日はゴーストタウンのように静まりかえっている。オランダ人は何につけてもいちゃもんをつけるのが好きだと聞くが、文句は言いつつも、決められたルールには従う気質のように感じる。
また合法でマリファナを扱うコーヒーショップという店がいったん営業停止になったのだが、(その際にはマリファナをため買いする客で長蛇の列が出来た)今は持ち帰りのみの営業が許可されているとのニュースを、何かおもしろ可笑しく報道するメディアもちらほら見るが、私には面白いとは思えないし、いたって普通のことに感じる。
今のところ目立ったパニックというものはなく、人々は粛々と毎日を過ごしている。
オランダに住んでもうすぐ6年を迎えようとしているが、仕事でもプライベートでも差別や偏見を感じたことは一度も経験がない。厳密に言えば気持ちや歴史に根付いた差別意識は感じるけれど、自らの生活に支障が出るような差別は経験したことがない。私が鈍感で海外での生活が長いゆえに自然に自分を守る術を身につけてしまったのかもしれないが、私はこの未知のウイルスに対してオランダの人々と共に政府の施策にしたがって戦い抜こうと思っている。
現状は綺麗ごとでは済まされない過酷な状況かもしれないが、オランダにはトイレットペーパーが最後の一つになったら、お隣さんにおすそ分けしてもらおうかなと思える緩さと優しさがあるような気がする。
暗いニュースが続く中、それでも空を見上げれば春は確実に近づいていることが実感できるし、昨日17日には花市場からたくさんのお花が医療施設に届けられたり、静まりかえった夜の20時にはオランダ全土、国王ファミリーも一緒になって、医療関係者やスーパー、公共サービスで働く人などに向けて感謝の気持ちを込めてみんなが拍手喝采を送ったりと、心温まるニュースも見受けられる。
誰もが不安で、何が正しいかなんて分からない世界。私にできるのは毎日すがすがしい思いで心も肉体も清らかに保つこと。隣人を愛すること。手洗い、うがい。外出は極力避けて、人との間隔は1.5メートルあけること。自分がウイルスを持っているとの前提で行動すること。笑顔。
いつかまた日本をはじめ世界のみなさんが訪れてくれるように祈りながら、医療をはじめライフラインに身を呈して従事してくれる人々に感謝しつつ、この終わりの見えない戦いに臨もうと、この記事を書きながら新たに自分に誓うのでした。そして、このウイルスに今感染している人が少しでも早く介抱に向かいますように。
追伸:スーパーに買い出しに出かける途中、大好きなパティスリーとお花屋さんが開いているのを発見。ファニーフェイスのあひるさんとお花を思わず連れて帰って来てしまいました。戦いは始まったばかり、息抜きしながら頑張ります!
Posted by まきの ななこ
まきの ななこ
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ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。