PANORAMA STORIES

バルセロナ、ロックダウン(外出制限)生活 Posted on 2020/03/18 林 真弓 通訳・ガイド・イベントコーディネーター バルセロナ

北イタリアの友人から長いメッセージが届いたのは3月12日の朝だった。
「スペイン政府の対応は不十分よ。家に閉じこもっていて!レストランやバルにも行かないで。できれば仕事にも行かないで。あなたのことを大切に思うから言ってることよ」
イタリアで起こっていることを驚愕の眼差しで見、「対岸の火事」ではないと分かってはいても、この友人からの忠告を苦笑いしながら読んだ。

「まさか。まだスペインはそこまでひどくない」

それがその日のうちに翌日からサグラダファミリアを始め主要な観光場所が閉められるという発表があり、14日には非常警戒体制が敷かれ、スペイン全土で人の移動を制限し、食料品店、薬局以外の店はすべて閉店することとなった。まるで迫りくる戦禍のように、徐々にしかし確実に私たちの普段の生活は失われていった。

それでも14日はまだ長い散歩が可能で、15日の朝は他のジョガーたちとともに近くの公園の周りを走った。ところが15日の午後にはジョギングも禁止、必要最小限の、しかも世帯に一人ずつしか外出が許されず違反した者には罰金という厳しい処置が発表された。

バルセロナ、ロックダウン(外出制限)生活

それ以来、外に出るのは買い物カゴを持ち、夫と交代でスーパーや八百屋に向かうときのみ。車の往来もすっかり減り、人の話し声がしない静かな道をマスクで半分顔を覆いながら歩む。時々人とすれ違うけれど1m以上間をあけながら目も合わさずに通り過ぎる。パトカーが徘徊し、要所要所に警察官が立っている。なんとなく何か悪いことをしているような気がしてなるべく警察官に出くわさないように歩く。3日前までは普通に友達とご飯を食べたり、公園でピクニックしたり、田舎にバイクで出かけたりしていたのに、この劇的な生活の変化は何なんだろう。うちの前のバルはいつも人がいっぱいで賑やかだったのに今は固くシャッターが閉められている。同じ街とは思えない。シュールリアリズムの絵画の中や核戦争後を描いた映画のセットの中にいるような錯覚さえ感じる。仕事もなく、収入ゼロのこの生活はいつまで続くのだろう。みんなで海辺にパエリアを食べに行ったり、タパスをつまみに行ったりできる生活はいつ戻ってくるんだろう。毎日挨拶を交わしていたご近所さんたちはどうしているんだろう。私でさえこんなに閉塞感を感じているのだから、お祭り好きで人との交わりが大好きなスペイン人たちは一体どうやって乗り切っているのだろうか。

バルセロナ、ロックダウン(外出制限)生活

14日の夜10時頃急に窓の外から賑やかな音が聞こえ、何だろう、とバルコニーに出てみる。住人たちが皆バルコニーに出て拍手をしたり、「ブラボー」と叫んだりしている。後に、これは新型ウイルスと戦っている医療スタッフに対する感謝の気持ちを表したものだったと知る。次の夜もまたフラッシュモブのようなバルコニーでの拍手。今度は私たちも参加した。そして3日目となる今日はいろんな友人からビデオ電話がかかってきた。みんな明るい表情をしていて安心する。お互いを気遣い、冗談を言い合い、画面越しに乾杯したり。少し状況を受け入れて、余裕が出てきたのかな、という感じがする。このロックダウン生活、2週間ともそれ以上とも言われる中、まだまだ先は長い。自分も含め、市民がどれだけ我慢できるのか、これからどう反応が変わっていくのか、まったく不明である。

唯一許された食料品の買い出しに出るときはできるだけ遠回りし、少しでも多く外の空気を吸って足を延ばすようにしている。観光客の消えた広い歩道から空を眺める。こんな状況でも地球はお構いなく自転と公転を続ける。プラタナスは芽生え、黄緑色の小さな葉をつけ始めた。濃いピンク色をしたハナズオウの花も街を彩り始める。春はすぐそこまで来ているのだ。

バルセロナ、ロックダウン(外出制限)生活

バルセロナ、ロックダウン(外出制限)生活

友人から送られてきたスマホ映像に、サグラダファミリア近くのバルコニーで電子ピアノを演奏する人に別のマンションの住人がサックスを合わせる姿が映っていた。まわりのバルコニーから拍手と歓声が。この映像を別の友人に送ると「うちの近くではこんな音楽やってるよ」と別の映像が送られてくる。いつの間にかバルコニーコンサートが流行っているのか!バルセロナ住民のクリエイティブな交流の仕方になんとなく希望を見出す。これからどう発展していくのか注目していきたい。



Posted by 林 真弓

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Mayumi Hayashi
通訳は主に英日だが、使用可能言語は、日、英、伊、西、仏。
オーストラリア、キャンベラ大学で応用言語学の修士号を取得したのち、地元岡山の大学にて英語非常勤講師。英語以外の言語を学びたくなり、32歳でフランス、トゥールーズに語学留学。その後イタリア、ベネチアで約9年の滞在を経て、現在バルセロナ在住。イタリアで知り合ったイギリス人の夫とスペインに住む、という??な、でもある意味非常に欧州的な状況を楽しむ毎日である。デザインストーリーズ、バルセロナ特派員。