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父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」 Posted on 2023/01/13 辻 仁成 作家 パリ

最近、大学生になった息子は仲間のウイリアム君とともに、餃子同好会的なるものを結成し、彼のアパルトマンで週に一度くらいの割合で、アジア飯を作りあって(研究しあって)いるのだ、とか。
で、先日も、二人で手作り餃子を作ったのであーる。
しかも、皮からの手作りなのだ。
皮からって・・・(;^_^A
これ、日本の話ではなく、フランスの現役男子大学生の話なのである。あはは。
その時に、息子から送られてきた写真がこちら!
もう、前に一度見てますね、(;^_^b

父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」

ところで、最近、彼が次に作りたいと狙っているのが、肉まん、なのである。
フランス語では「ブリオッシュ・オ・ポー」とでもいう、のかな・・・。肉まんである。
手作りで、もちろん、皮から全部作りたいのである。
というのは、昔、よく我が家ではこれを作っていたのだ。
何度か、息子と一緒に、このブリオッシュ・オ・ポーを作ったこともあった。
彼はそれを、今、再現したいのであった。
ということで、ちょっと前になるが、ご覧いただきたい、辻家定番のブリオッシュ・オ・ポーであーる!!!

父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」



よく、覚えている。
あの日、冷凍庫に豚のひき肉があったのだ。
ええと、感染症が爆発する前、まだ、ロックダウンになるちょっと前のこと。でも、すでに、不穏な感染症がじわじわとフランスにも忍び寄っっていた時期のことである。
買い物に行くのも怖かったので、冷蔵庫を漁ったのだった。
ひき肉があった!
眺めていたら不意に豚まんを食べたくなった。
結構、作るのが面倒くさいのだけど、ぼくはたまにあえて面倒くさいことと向き合いたくなる。
肉まんは手作りだともちもち、ふわふわ、ものすごく美味しいのが出来る。
でも、それは手作りだからこそ味わえる醍醐味。
その面倒くささを引き受ける時に人間は超越していくのだ。
ぼくの料理の哲学は妥協しないということに尽きる、なので、まず、肉まんの皮づくりからはじめた。
息子はこれを受け継いだわけだ。
よしよし。(;^_^x

ボウルに薄力粉とドライイーストとベーキングパウダーを入れる。
お湯に牛乳を混ぜ、ぬるい牛乳水を作って、ボウルに注いでいく。
よく手を洗ってから捏ねる。あはは。(;^_^c
まとまってきたらサラダ油をちょっとずつ加え、さらにむんずむんず捏ねていくのだ。
こういう面倒くさいことをしている時には余計なことを考えちゃいけない。
息子がやって来て「今日は何?」と言った。
「ふかふかの肉まんだよ」
「いいね。パパのブリオッシュ、大好き」
「でも、ちょっと時間がかかるから、そこにあるカップ麺でも食ってろ」
息子が笑った。
「じゃあ、最初からカップ麺でいいんじゃないの?」
一理あるなと思ったけれど、ぼくは肉まんが作りたい。ここでやめるわけにはいかない。
「待てるなら、美味しい肉まんが食べられるよ。それが人生というものだ。どっちがいい?」
「待つ」

父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」



「で、何してんの?」
「肉まんの皮を作ってるんだよ。生地が滑らかになるまで最低20分くらいは捏ねないとならない。どんな料理でも基礎をすっ飛ばすと不味くなる。大事なことは努力と辛抱だ。いいか、人生を舐めるな。いついかなる時も努力をしろよ。手抜きはカップ麺の専売特許だけど、カップ麺はカップ麺だ。人生は手を抜いたら、手抜きの人生が出来上がる。こうやって、人生の基礎を丁寧に築いておくと長持ちする」
「パパ、何言ってんの?」
息子が笑い出した。
Kポップの歌手みたいな流行りの髪型が気になった。

ボールに丸めた生地を一つ30gずつ小分けし、丁寧に並べていく。
「どうだ、綺麗だろ」と自慢をする。
息子は丸椅子に腰かけ、黙ってぼくの作業を見ている。真剣な目で見ていた。あの時、彼はすでに、自分も作りたい、と思っていたのに、違いない。筋がある・・・。(;^_^d
濡れ布巾がなければクッキングペーパーを湿らせたものでも良いのだけど、丸めた生地にかぶせ、ラップをして暖かいところに置いておく。
「見て見ろ。買えば中華街で1ユーロで買える。でも、こうやって、パパが手作りをすることでお前に伝えたいことがある」
「それは何?」
「人生というものとの向き合い方だ」
息子が鼻で笑った。
後頭部、刈り上げてるのか? 
流行りを追い過ぎているな、と思ったけど、ま、それが青春というものである。



生地が発酵して、2倍くらいの大きさになるまでの間、待たないとならない。
その間に「あん」を作る。「これがさらに面倒くさいのだけど、じゃあ、登山家はなぜ山に登ると思う?」
息子は呆れたのか、返事をしない。

中華食材店で買った瓶詰のたけのこを小さく角切りにし、予め戻しておいた干し椎茸と長ネギも同じような大きさに細かくカットする。
生姜をすりおろしたら、豚ひき肉と一緒に全てボールにぶちこみ、手際よく混ぜていく。
「パパはそういう面倒くさいことが好きだって自慢話し? でも、人生って楽していいんじゃないの? 肉まんとか、日本だとコンビニで買えるじゃん。誰もそんな面倒くさいことしないでしょ?」
「お前はわかってない。登山家にしか分からない人生の醍醐味を、麓でぼけーっと見上げてるだけの人間には伝えられないんだよ。お前が頂上に苦労して立った時にはじめてわかる喜び、興奮、感動がある。マジ、めっちゃ美味いんだ、これ。喰えばわかるんだけど、作らなきゃ、喰えない!!!」
息子が笑った。
「ぼくは麓で見上げていたい。ほっといてくれよ」
あはは。(;^_^e

父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」



ちょっと疲れたので、冷蔵庫からビールを取り出し、もう一つの丸椅子に腰かけ息子と向き合って飲んだ。
タッパーの中で生地が膨らみ始めている。
「見ろ。これが醍醐味だ」
「へー」
と息子が感心するように言った。
普通なら、すぐにいなくなる息子がなかなかキッチンから出て行かないので、どうした、と訊いてみた。
「実は、ちょっと悩んでいることがある」
「そうだと思った。で、それは何? 」
「たいしたことじゃないよ、パパ」
「じゃあ、美味しい肉まんを食え。そしたら、きっと何かがわかる」
「・・・」

膨らんだ生地を手に取り、真ん中を少し分厚く残して、周りの皮を薄く伸ばしていく。
そこにあんを置き、包んでいくのだ。登山で言うならば七合目というところか。
「ほら、山頂が見えてきた。ここまで来ると、途端に料理が楽しくなる。人生もそうだ」
左手の手のひらに皮を置き、親指であんを押さえながらひだを作っていく。
10〜12のひだを作ったら最後はひだ全体をぎゅっとひねって、あんを包み込むようにして、生地を閉じる。
この瞬間が最高なのだ。
「ひゅー」と口笛を鳴らした。
小さく切ったクッキングシートを敷き、蒸し器に入れる。沸騰したお湯の上に蒸し器をのせ、火をつける。
「山頂がそこにある。15分蒸したら、中華街の数倍は美味い肉まんが出来あがる。お前、どう思う。パパをバカに出来るか? コツコツと努力する人間をくだらないと思うのか?」
Kポップのスターみたいな横顔で、息子が蒸し器をじっと見つめていた。それはめっちゃ真剣な目であった。
その後、息子は、料理をはじめた。
ぼくは少しずつ息子に何かを手渡していた。
ぼくは大変満足な顔で、息子の横にいた。
「で、君はいったい何について悩んでるんだ? 」

父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」

父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」

お知らせです。
1月29日、父ちゃんのオンライン・文章教室をやりますよ。息子に料理を教えるように、優しく、時に厳しく。(;^_^f
ということで気になる皆さん、下の地球カレッジのバナーをクリックください。

地球カレッジ

父ちゃんの料理教室「人生というのは面倒くさいことの連続だからこその肉まん!」

それから、NHKのパリごはん、まだ続いていたんですね。来月、新作が登場します。三四郎ファンの皆様、お待たせしております。チェックお願いします。
「辻仁成のパリごはん 2022年秋冬」(59分)
2023/2/17(金)後10:00~10:59【BSプレミアム・4K同時】
2023/2/21(火)後5:00~5:59【BS4K】※再放送
2023/2/21(火)後11:00~11:59【BSプレミアム】※再放送

で、しつこいようですが、5月29日にパリのミュージックホール、オランピア劇場で単独ライブ!!!
5月29日のオランピア劇場ライブの翌日に、JALパックさんが企画をし、ぼくがよく知るレストランで、せっかくだからランチ会をやることになりました。ぼくも顔を出し、トークをやる予定ですので、せっかくパリに来られる皆さま、よろしければ、どうぞ、ご参加ください。JALパックさんに相談をすれば、モンサンミッシェルなどのツアーも・・・。この機会に、ぜひ。
詳しくは、こちらのURLをクリックください。

5月30日 辻仁成 オランピア公演記念 『感謝!Merci!』 トーク&ランチ会 《追加設定》



続いて、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」はこちらです。無料でも聞けます。ってか、ほとんど無料に近いですので、思う存分楽しんでください。音楽が危機的な状況ですけど、ミュージシャンたちは頑張っています。


https://linkco.re/2beHy0ru

自分流×帝京大学