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フランス語の輪郭「せくわ?」 Posted on 2020/01/29 辻 仁成 作家 パリ

「なんでフランスで暮らすようになったの?」とよく聞かれます。理由はないし、逃げるように渡って来たので、当時、ぼくは「ボンジュール」しか喋れませんでした。フランスで生きるしかなくなった時、ぼくが最初に覚えた言葉は「せくわ?」もしくは「せくわさ?」でした。それ、なーに? という意味です。お店で気になるものがあれば、せくわ、と指さし、意味不明の会話にも、せくわ? でした。知らない時に使う世間知らずの人たちの言葉です。

フランス語の輪郭「せくわ?」



quoi (くわ)は、「何」という意味の単語。

なので、そこにC’est (英語でいう、It is)をつけて、C’est quoi? せくわ? といえば、(これはなに?)という意味になります。
「これは何ですか?」という意味の、けすくせ? がスタンダードだとすれば、せくわ?は少しくだけた言い方。
あまり綺麗ではありませんが、でも、十分通じます。
むしろ、街ではこちらの方がよく聞こえてきたりするかな…。

パン屋さんで、気になるお菓子があったら、せくわ?
お肉屋さんでも、八百屋さんでも、せくわ?

ただ・・・、せくわ?と聞いて、相手に早口のフランス語で答えられても、ちんぷんかんぷん!ですね。
そういう時は、首を傾げていると、チョコレートとか、アップルとか、チキンとか、英単語で教えてくれることもあります。

「くわ」、ひと言だけでも使えます。
ニュアンス次第でいかようにもなるのが「くわ」。

相手の言っていることが聞こえない時、「くわ?」と語尾を上げていえば、もう一度教えてくれたり、
大きな声で「くわぁ!?」といえば、なぁんだってぇ!?というニュアンス。
誰かにじっと見られたりして気分が悪い時、「くわ」と低めに意えば、「なに?」(なにか?)みたいなニュアンスにも。
文章の最後に「・・・・、くわ」をつけることもあり、その場合は「要するに、・・・・なのさ」という意味になります。

くわ、くわ、くわ?

耳をすますと「くわ」がいっぱい聞こえてきます。好奇心旺盛なフランス人にぴったりなひと言なのです。

ただし、仕事とか、全く知らない人と話す場合はちょっと失礼な言い方になってしまうので、控えましょう。
場をわきまえて実践することをおすすめします。
知らない人に話しかけられて聞き直す時は、「くわ?」ではなく、「ぱーどん?」といいましょうね。この場合だと「なんでしょうか?」という感じになります。

赤ちゃんや幼児が一番最初に覚える言葉かもしれませんね。
フランス語が喋れなかった頃、ぼくは「せくわ?」でフランスを学んでおりました。

自分流×帝京大学

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。