PANORAMA STORIES
フランス語の輪郭「じゅぷ?」 Posted on 2020/01/14 辻 仁成 作家 パリ
渡仏して18年が過ぎた。いまだまともなフランス語を喋ることのできないぼくだけれど、パリで子供を育て、生きているのだからフランス語を喋らなければ生きることはできない。ぼくが喋るフランス語は教科書に書かれてある文法のかっちりとしたフランス語ではなく、スラングも混じった、どちらかというと生活語かもしれない。それでも、ここパリで、一人の少年を青年にまで育て上げることが出来たのだから、通じている!フランス語を何も知らずにパリに遊びにやって来る人たちに、またはフランスに興味を持っている人たちに、フランス語の輪郭を通して、フランスを知ってもらいたいと思った。毎回、ちょっとずつ、かわいらしいけれど、実践的なフランス語の入り口を一緒に学んでいけたら、と思う。なんとなくでいいから、フランス語の輪郭を掴んでみよう。まずは、「Je peux?」
「Je peux?」は、”じゅぷ?”と発音する。
~していい? という意味になる。
お店で気になるものをちょっと手にとってみたい時、じゅぷ? といえば、売り子さんは、ウイ、というだろう。触ってほしくなければ、ノン、と戻ってくる。
試着したい時、じゅぷ? と服を手にとって訊けばいい。英語のCan I? とほぼ同じ、超便利な言葉だ。
つかれたから、そこにある椅子に座りたい時にも、じゅぷ?
本来なら「じゅぷ」の後に文章が続くが、相手が目の前にいる場合、じゅぷ? と言って指差せばだいたい通じる。
何かしたい、してみたい時は「じゅぷ?」と言って相手の顔を見ればいい。でも、異性がじゅぷ? と言いながら近づいてきたら、全力で、ノン、とはっきり言いましょう!
Jeは「わたし」という主語、peuxはpouvoirという動詞の現在形。でも、余計なことは考えず、じゅぷ、と覚えて大丈夫。フランス語を難しくするのは学校、でも、赤ちゃんだってだんだん話せるようになるのだから、怖がる必要はない。笑顔を忘れないでね。
じゅぷ?
ウイ、ウイ、ウイ。
Posted by 辻 仁成
辻 仁成
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作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。