JINSEI STORIES
滞仏日記「母さんにテレビ出演の依頼舞い込む!」 Posted on 2019/10/29 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、タイタン経由でうちの84歳の母さんにテレビ出演の依頼が舞い込んだ。時々、母さんの若い頃のお言葉をツイートしていたからか、母さんの半自伝を出すからか、なぜか母さんに番組出演の依頼が来た。母さんはぴんぴんしているし、84歳にしては元気だが、今から十年前に頭の大手術をしていて、手術は成功したのだけど、その時、開頭手術だったせいか、片方の目が見えなくなり、しかも、記憶が怪しくなった。なのにプライドだけは普通の人の百倍凄くなって、その上制御不能。若い頃は知的で理屈の通じる人だったが、今は、ある意味子供に戻ってしまった。出演すれば話題性間違いなしだが、家族的には制御できない母さんを公の場に出していいのかということになり、弟や長年のスタッフと話し合うことになった。まだ、結論は出ていない。
そもそも母さんは頭のど真ん中に五円玉程度の動脈瘤を持っていた。手術をするのが難しい場所で福岡の主治医は様子を見ていた。ところが、今から10年くらい前のこと、僕が息子と東京に行った時、ベビーシッターを母さんにお願いし、福岡から出てきてもらったのだ。僕が仕事をしていると母さんから電話、出ると様子がおかしい。呂律が回っていない。その時、母さんの動脈瘤が破裂していたのである。救急車を呼び、慶応病院に入った。すご腕の先生が中心となり開頭手術、一命をとりとめた。そういうことで母さんは元気だが、記憶が失われたり、なんか雰囲気が前と違っていて、昔の母さんではない。そのことを言うと怒るので何事もなかったようにみんなふるまっているが、いや~、超頑固になった。記憶なんか関係ない、ゴーイングマイウェイ!
「兄貴、悪いけど俺には母さんを制御する力はないよ。言っとくけど、コントロール不可能だからね。怖い者知らずの84歳、何を喋るか本当にわからない。あることないこと喋りかねないし、ぼくが何か言うと、すぐキレるんだから!」
長年、母の面倒をみている弟が頭からさじを投げてしまった。確かに、何を言うかわからないというのが怖すぎる。ぼくについて、ペラペラと喋られても困るし、若い頃の知性的な母さんとはちょっと違ってる。怖い者知らずの辻恭子である。
息子曰く、
「ばばは凄いよ。めっちゃマイペースだからね。目を離すとトコトコ勝手にどっか行ってしまって、その辺の人に言いたいこと言って笑わせているからね、ひやひやだよ~」
なのだそうだ。
母さんにテレビ出演、これは面白いけど、家族としては心配でもある。波乱万丈な人生を歩んできた日本の超頑固バアちゃん!尊敬する大好きな母さんだけれど、吉と出るか凶と出るか、誰にもわからないところが恐ろしいのである。