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滞仏日記「セクシーな温暖化対策」 Posted on 2019/09/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、うちは毎晩、夕飯の時間を利用して今日の出来事とか最近の社会問題なんかを議論している。だいたいは息子が学校の授業で先生に習ったことの受け売り+自分たちの考え方からのデバ(議論)なのだが。何度も日記に書いてきた通り、息子は地球の温暖化に強い危機感を感じていて、だから食べるものやプラスティックや冷暖房やいろいろなことに対して、事細かく注意を払っている。そして、だいたいその矛先はぼくに向けられる。大人がこういう世界を作ったのに、まだ気が付かない国がたくさんあって、その犠牲を被るのはぼくらの世代だ、という耳の痛い話が食事中続く。やれやれ。助けてほしい。

その息子に、小泉進次郎さんのニュース動画を見せた。気候変動問題についての国連のイベントか何かで小泉環境大臣が発言した「セクシーに」が話題になっていたからだ。
「パパ、このニュースだけじゃ、この人がいいとも悪いとも言えないよ。セクシーって、パパもよくつかうじゃん」
「いや、パパが使うセクシーって、意味が違うんだよ」
「知ってるけど、でも、ぼくは日本語があまりよくわからないから何とも言えない。ただ、この若い大臣さんは絶望的な環境問題を違った角度で前向きに変えてやろうぜって言ってるだけじゃないの? 前後の彼が言った英語のところはそう聞こえないでもないけど、何が問題なの? みんな普通に使うんだよ。ちょっと悪っぽい感じだけど、別にそれはそういう意味じゃないし、そういう風に使う方が多く人に伝わるし、笑いもとれるし、ぼくの先生だってたまに使う」
「でもな、問題はそこじゃない。最初に批判したのはアメリカの新聞記者だ。具体的に二酸化炭素排出量をどうやって減らすのかという質問をした。(東京は2050年、二酸化炭素排出量ゼロを目指している)大臣は具体策には言及せず、楽しくクールにセクシーにと言った」
「日本語でなんていう? あげあし? とるの好きじゃないし、そもそも、アメリカの記者はトランプ大統領に質問するべきじゃないの? つまりアメリカは環境問題を一番に考えるべきだし、あの国の責任の方がもっと大きく記事になるべきなのに、この若い人つぶしても意味がないよ」
「まだ大臣になって10日目なんだよ」
「日数は関係ない。環境大臣引き受けたなら、環境問題を勉強してきたから指名されて、引き受けたんでしょ?」
「・・・・」
「なんにも知らないで環境大臣引き受けるわけないでしょ」
「これから勉強するんじゃないかと思うよ」
「ちょっと待って。10年後、世界がどこまで維持できているか、誰にも分らないんだ。だから、フランスの中高生は各地で大規模なデモやってる。100万人規模のデモもある。マクロン大統領とも議論する。話がかみ合わないけど、しないとずっとかみ合わないまま終わる。大統領と若い学生が議論することで、ぼくらの切実な気持ちが数の力で上に届く。議論をバカにしちゃだめだし、勉強はしなきゃ」
息子の学校はカトリックの厳しい私立高校だから、デモへの参加は禁止されている。それでも、クラスメイトの何人かがそのデモに参加した。息子は学校側の立場も理解しているので、悩み続けた結果、デモには行かなかった。悔しそうな一日だった。でも、自分たちの地球なんだから、自分たちで守るしかかない、と言い続けている。小泉さんがスピーチの中で発言した部分のいいところはそこ、つまり若い人が考えて行動している、の部分だった。でも、番組によってはそこが削除されていた。そして、セクシーだけがクローズアップ現代! 
「この大臣さんのこと、また教えて。もし、ぼくがこの人と対話できる機会があるなら、言いたいことがたくさんある。日本とかフランスとか関係ない。環境問題は世界共通のテーマで、最重要課題なんだよ。フランスの子供たちが何に不安なのか、なんでこんな大規模なデモをして、先生や警察に怒られているか、知ってもらいたい。早急な温暖化対策が必要だって、そのくらいの日本語なら、話すことが出来るし」
この前向きな気持ちを、ぼくも持たなきゃならない、と思う。持っているけど年を取るとどんどん、後出しじゃんけんになってしまう。やれやれ。
「パパもセクシー目指したらいいじゃん。まだ、若ぶってるし」
くそ。息子は笑いながら席を立った。
「おい、食べたら食器は片付けろ。そして、必ず電気は消すように。環境問題をそこまで言うなら、家の中から行動しなさい」

滞仏日記「セクシーな温暖化対策」