JINSEI STORIES
滞仏日記「ぼくは今日、ちょっと自分が嫌いだった」 Posted on 2019/09/24 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、自分が嫌いと思う瞬間ってたまにあるよね。ナルシストのぼくであっても、自分が嫌いになる瞬間があります。きっとほとんどの人の中に自己否定という感覚は多少なりとあるんじゃないか、と思う。ぼくは今日、ちょっと自分が嫌いだった。
なんとなく自分が許せなくなるというのか、自分を否定している自分がもう一人出てくるというのか、そのもう一人との葛藤こそが自己否定行動なのだけど、この自己否定って放置しておくと底なし沼に落ちていくというのか、酷い場合は自分を壊してしまう。だから、軽くあしらっちゃだめだって、ぼくはぼくに言い聞かせてきた。
幸いなことにぼくは自分が好きだから、というのは、自分のいいところを見つける天才だから、いいなと思うところは自分の長所と思って平気で自慢とかしちゃうので、自己否定自分になんとか勝ってこれた気もする。ぼくなんか鈍感だからそれでいいけど、もっと繊細な人たちはなかなか自分の長所を見つけられないというのもあると思う。
でも、こういう「自分が許せない」、と思う自分はそれはそれでいいんだよ、と思えた時、きっとこの自己否定自分は薄れるんじゃないかな、と思う。「俺はこういう自分が嫌いなんだ」、「私はそんな私が許せないのよ」、と思える自分って、よく考えてみると、前向きだし、自分の欠点にきちんと気が付くことが出ているということで実は、良さなんだけどね。だから、自己否定をする人っていうのは、自分を冷静に見つめることが出来る大人ということもできるのだ。
ぼくは昔からツイートでも言ってるけど、「自己嫌悪」って裏を返せば自分をよく見ているということだと思う。時々、自己肯定しかしない人にあって、そこまで肯定するか、と思っちゃうのだけど、それに比べると、自己嫌悪に陥りやすい人って謙虚で真面目なんだよ。だから、そこまで自分を否定する必要はないし、そうやって自分の欠点に気が付く自分をこそ褒めるべきだと思ったりする。ぼくは、それをやり過ぎて、こんな人間になってしまったような悪い例かもしれない。でも、自分のいいところを伸ばせたらいいな、と思って今日も生きたいなって毎日心がけている。うん、そういうことなんだよね。じゃ、走ってくるよ。