PANORAMA STORIES
今年も解禁! 夏を告げる、ハーリング漁 Posted on 2019/07/09 まきの ななこ ライフスタイルキュレーター アムステルダム
緯度の高い位置にあるオランダ。冬はどうしても暗く、全てがグレーで、どんよりした日々が続きがち。でも、5月、6月に入ると今までの遅れ? を取り戻すがごとく、樹々は蒼青く繁り、日はどんどん延び、なんとなく土色(笑)だった市場やスーパーにも、チェリーにフランボワーズにブラックベリーなど、カラフルな野菜やフルーツが並び始めます。食いしん坊の料理好きには目移りしてしまう楽しい季節の到来です。
そんななか、以前ご紹介したホワイトアスパラガスの収穫と並ぶ大イベントとなるのが毎年6月の中旬に解禁されるニシン漁。こちらではニシンのことをハーリングと呼び、初物のニシンは市場で競り落とされ収益金はチャリティーに寄付されます。
ちなみに今年2019年の解禁日は6月13日で、一樽78,000ユーロ(約960万円)で競り落とされたそう。アムステルダムから南へ1時間ほど下ったデン・ハーグ近郊の北海に面した街、スヘフェニンゲンではこの「初ニシン」の水揚げを祝うお祭りも開催されます。
さて、そのお味はというと。こちらのニシンは生と言っても塩漬けされたものがメインで一年中手に入れることが可能ですが、この時季に捕獲されたものは脂が乗り、まだ浅漬けで甘く、身は引き締まりながらも口に入れるととろけるようなまろやかさ。美味しいです!
青魚に馴染みの深い日本人にとっては、何か故郷を思い出す古き良き味覚、とも言えるかも知れません。オランダではすでに中世の頃から食されていたということですから、その歴史は相当な長さです。友人の中には自宅にニシンをモチーフにした絵画を飾っている人も数人いますし、何より近所のお花やさんで飾られているクリスマスツリーのオーナメントがニシン! だった時には、ニシンに対するオランダ人の思い入れにただただ驚嘆しました(笑)。
お次は気になる食し方ですが、オランダらしくそれはそれはいたってシンプル。刻んだ玉葱を少々ふりかけたら、尻尾を持って丸ごと一口でガブリというかツルリ?といきます。
さすがにそれでは味気なさすぎるという方は、その昔給食に出て来たコッペパンのようなシンプルなパンにニシンとピクルスを挟んでいただくというようなバージョンもお楽しみいただけます。
いずれにしてもあまり色々と趣向を凝らしていただくというよりは、シンプルに豪快に味う方がオランダのニシンには向いているような気がします。
インスタ映えとは対極を行くようなこのニシン(ハーリング)。残念ながらこちらでも若者にはあまり人気ではないようですが、それでも街中のいたるところにあるハーリング専門スタンドは、いつでもオランダ人をはじめ観光客や地元の外国人で賑わっています。
近くのスーパーでもこの時季になると実演販売?のようなことをしていて、上記のニシンとパンのサンドイッチセットを大人買いしている強者も見かけます。
私もオランダに来たての頃は、あさつきやわけぎを細かく刻んだものに生姜醤油をかけていただいたり、酢飯や白ごまのご飯で手まり寿司のように握ってみたり、はたまた人参に昆布、日本酒を振りかけてなんちゃって松前風にしたりと、色々な変化球を投げてみましたが、今ではこの”ニシンサンド”(勝手に命名)が一番のお気に入りです。このサンドイッチに使うパンには素朴で固すぎない白パンを使うというのがポイントで、そこに染みこんだ漬け汁が甘塩っぱく、クセになる美味しさなのです。それはピンチョスやタパスに使われるあのパンに通じるものがあるかも知れません。ここでは、あくまで主役はニシン (ハーリング)なのです。
今回は何だか、私のニシン愛ばかりを語ってしまいましたが、写真や言葉では表現しきれない実際のモメントを体で楽しむということは、人間が健やかに生きていくことにとって、とても重要だと思うのです。
インスタ映えもしないし、あまりフォトジェニックでもないけれど、皆さんもオランダにお越しの際はぜひ街角のスタンドでツルリと1匹、してみてください。
Posted by まきの ななこ
まきの ななこ
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ライフスタイルキュレーター。シカゴ、東京、モスクワ、ロンドン、、、一期一会に生かされて。新しいホテルやブランドなどの立ち上げに携わりながら様々な都市を巡り、2014年よりアムステルダム在住。オランダ語見習い中。放浪癖あり。