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滞仏日記「コリー・ハートとポール・ヤングの衰えぬ情熱」 Posted on 2019/07/03 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、ポール・ヤングとコリー・ハートがオーチャードホールでライブをやるというので観に出かけた。コリーは57才、ポールは63才なのだそうだ。今の若い人は聞いたことがないかもしれないが、僕が現役の頃はヒットチャートを賑わす大スターだった。コリーはカナダ出身の歌手で、ポールはイギリスである。この二人がタッグを組んで、同じミュージシャン仲間を共有しながら、多分、世界各地を回っている。そういう手もあるんだな、と思わずメモしてしまった。僕が同じようなことをやるとしたら、相手は誰だろう? いや、僕は友達が少なかったからな、無理か。(笑)

ポールはちょっと喉の調子が悪そうだったけれど、コリーが登場すると場内はものすごく沸いた。30年、ずっと家族のために生き、音楽から遠ざかっていたとは思えない体力と声を披露してみせた。コーラスをしている女性がどうやら奥さんのようで、二人の間には4人の子供がいる。愛に支えられて家族のために時間を割いて生きてきた男の真摯な姿勢が最後まで一貫していた。それにしてもヒット曲を持っているというのは強い。知ってるメロディが流れると思わず身体が動いてしまう。彼らのことをそんなに知らないのに、そのメロディを聞くだけで、その時代が蘇るというのだから、音楽のすばらしさであった。僕の隣には音楽評論家の湯川れい子さんがいらした。彼女のご招待で僕は20列目に座ることが出来た。コリーがラストの、たぶん、エルビスプレスリーの名曲「Can`t Help Falling love in love」を湯川さんに向けて歌いだした。その憎い演出で公演は締めくくられた。湯川さんの喜びようが手に取るように伝わって来た。

僕はこの同じステージに10月12日に立つ。だから、彼らのライブステージは、そこでまるで自分が歌っているような想像を連れてきて、僕をドキドキさせた。年齢も近い二人だからこそかもしれない。僕ならば、こうしてみたい、僕だったら、ここでこういうMCをする。僕だったら、こういう曲順にする、と頭の中でいろいろなことが次から次に湧き上がって来て、それがもう一つ別の興奮を誘った。自分のオーチャードホールでのライブ前に、同年代のアーティストのライブというのはとっても参考になった。終演後、楽屋に行きましょう、と湯川先生に腕を引っ張られたが、とてもその気にはなれなかった。アーティストが30年ぶりにファンと交わした感動を僕なんかがしゃしゃり出て邪魔するのは無粋というものである。ありがとう。コリー、そして、ポール。楽しかったよ。お客さんたちの姿が、自分を応援してくださっている方々と重なった。いい夜であった。
 

滞仏日記「コリー・ハートとポール・ヤングの衰えぬ情熱」