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滞仏日記「なんでもいいんだよ、今の君のすべてを見せてくれ!第3回・新世代賞」 Posted on 2019/06/06 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、ほんとうに単純に僕はもっと子供たちにチャンスを与えるべきだと思う。2016年にこのデザインストーリーズをはじめたのだけど、その直後、僕は長年の夢だった新世代賞を創設した。じっとしていられなかった。大人たちの登竜門はいくらでもあるのだけど、若い人たちがもっと気楽に自分たちの才能と出会える場所があってもいいのに、と思っていた。自分は新人賞のおかげでこうやって創作を続けることが出来てきた。ならば、じゃあ、ここに新人賞を作っちゃえ、と思った。でも、何の賞だろうと悩んだ。音楽? アート? 文学? 最初はアートとデザインの賞としてスタートしたのだけど、実際はなんでもよかった。表現であればすべてその対象としてもいいのじゃないかと思っていたし、実際思っている。ジャンルなんか関係ないと思っている柔らかい頭の持ち主たちに自由に創作してもらいたかった。作品を叩きつける場所がここであればいいのだ。

自分も10代の頃、音楽や小説やアートや映像の強い影響を受けてきたけれど、そこに、線引きをしたことがなかった。いまだに僕は音楽も文学も演出も続けている。大人になると自然にそこらへんに線引きが行われてしまう。でもさ、そうじゃないんだよ。表現ってのはそういうものじゃないんだ、という思いがずっとあった。性別とか、学歴とか、ジャンルとか、文法とかに、今は囚われるなよ、といいたい。何かを伝えたい、届けたい、叫びたい、発したいという思いが、その時に出会った形と呼応して音楽や絵画やデザインや文学になったら素敵じゃないか。そこから勉強がはじまりプロの画家になったり音楽家になったり小説家になるのだけど、それ以前のものにこそ原石の輝きがあるわけで、僕はそういう人たちにこそチャンスを手渡したいと思っている。メソッドや文体や方程式は大人になってから勉強しても十分間に合う。でも、そんなものばかりやっている芸術家なんてほとんどいないんだぜ。それが新世代賞の根本理念なのだ。

大人になることは苦しい。僕はこの年齢まで戦って来たけれど、それでもどんどん目に見えない鋳型に抑え込まれていく。がんばってそれを打ち破って創作を続けてきたけれど、どこかで自分も大人社会のシステムに絡めとられはじめているな、と思う瞬間がある。これは死ぬまで続く孤独な闘争だと思う。それでも表現者であり続けたい。死ぬまで発信していきたい。その中で僕は同じような世界へ進みたいと思う若い人たちに何かできないかと思いついた。せっかくはじめたデザインストーリーズなのだから、ここに世界一元気な新人賞を創設したらいいんじゃないか、と思いついた。去年、第2回目の受賞パーティの時に、受賞者、候補者たちと一同に会する機会があった。彼らが次から次に僕のところにやって来て、ほとんどは学生だったが、終わることのない質問を浴びせられた。その熱気、あの情熱、あの探求心こそ、僕が応援したかったものだった。少しだけ長く生きたものとして、僕は彼らの中に眠る才能を発掘したいと思った。その想像力がこれからのこの世界を導くのだと思う。何がしたいのか自分にもわかってはいない、でも、何かしなきゃといつも思っている、そういう人たちを応援したい。第3回新世代賞が少なくともここに集う若い世代になにがしかの希望を与えることが出来るなら、それが僕のやりたかった全てなのだろうと思う。ただ、それだけだったりする。人間は新人でいる時が一番幸せなのだ。
 

滞仏日記「なんでもいいんだよ、今の君のすべてを見せてくれ!第3回・新世代賞」