PANORAMA STORIES
冬も夏も! トリュフ市の楽しみ方 Posted on 2020/12/07 ムーケ・夕城 トリュフ栽培士 フランス・ドルドーニュ
3月半ばに冬トリュフ市が終わると、5月には、もう夏トリュフ市が始まります。冬トリュフ市は11月末からの4ヶ月間行われ、夏トリュフ市は5月からの4ヶ月間行われますので、合計すると年の3分の2はトリュフ市が開かれていることになります。
今回は、トリュフをマルシェで購入するシーンをご紹介させていただきます。
まず、トリュフ市のスタイルは2つ。市(いち)が開く前に検査官によるコントロールがはいるmarché contrôlé(マルシェ・コントローレ)と、交渉をはじめ何から何まで客と生産者の間に委ねられるmarché non contrôlé(マルシェ・ノン・コントローレ)があります。私が住むペリゴール地方で開かれるマルシェは全てがマルシェ・コントローレ。寒さのせいで一度凍ってしまったトリュフや中国産などのトリュフが混ざっていないかをチェックし、マルシェの質を保っています。
入念な検査を終え準備されたトリュフ市。10時に鳴り響くの教会の鐘の音とともに、ドアの向こうで待ち受けていた群衆がマルシェにどっと流れ込みます。マルシェに一歩足を踏み入れると、鼻腔だけでなく体全体が強いトリュフ香に包まれます。若きシェフ、家族を迎えるためにトリュフでもてなそうと張り切る老夫婦、シーズンを心待ちにしていたトリュフラバー、お客の層は様々。冬のトリュフ市では、大金が動くとあって目を鋭く光らせる警察官の姿も見受けられます。
マルシェ内を見渡すと、ジャンパーのポケットに手を突っ込み、ハンチング帽を被ったムッシューたちの姿。小さな編みカゴに言い合わせたかのようにギンガムチェックの布を敷き、採れたばかりのブラックダイアモンドを包んでテーブルの前に佇んでいます。一見、取っつきにくそうな空気ですが、敬遠してしまっては残念。身振り素ぶりでいいからコミュニケーションを試みれば、お茶目な一面を見せてくれますよ。
一番たくさんトリュフを展示していたおじさんに「優秀なトリュフ犬をお持ちなんですね」と話しかけてみました。すると、「うちには2匹いてね。一匹は私」と自分を指差しながらおどけてくれました。ペリゴールの人たちははにかみ屋さんが多いのです。
「ひとついただきたいので、一番熟してるものをいただけますか?」
そうたずねると、何やらテーブルの上をゴソゴソ。探していたのはナイフです。ナイフでトリュフの表面をほんの少し削り、gleba(グレバ)と呼ばれる内側の状態を見てくれます。これをcanifage(カニファージュ)と呼びます。
ブラックトリュフの王様、メラノスポロームの内側は黒く美しい大理石模様のよう。もし、白い静脈模様が見えない真っ黒な状態なら一度凍結したものなのです。軽く押してみるとスポンジのように柔らかいので、目と感触でも確認できます。もちろん、マルシェ・コントローレなら検査の時点で排除されているはず。
カニファージュでは、凍結しているか否か熟成状態か否かを確認する他に、一見酷似するメラノスポロームとブリュマルの見分けもつけられます。メラノの半値がつけられるブリュマルのグレバは、比較的色が明るくうす茶をしており、流れる脈も太かったり細かったり。メラノほど繊細ではありません。
おじさんは、カニファージュしたトリュフの断面を私に見せながら「これは中が白っぽくて静脈も薄いだろ? 熟してない証拠」と言って、入っていたカゴの中にポンッと放りこみました。
トリュフの気になるお値段ですが、キング・黒トリュフのメラノ・スポロームには3つのカテゴリー「エクストラ」「ファーストカテゴリー」「セカンドカテゴリー」があります。エクストラは全収穫量の2パーセント程。エクストラに選ばれる第一要素は香りでもなく、大きさでもなく、限りなく「丸」に近いもの、その形なのです。
トリュフの相場は毎年の収穫量によって変動しますが、エクストラが1000ユーロ/1kgだとすると、ファーストカテゴリーが750ユーロ/1kg、セカンドカテゴリーが600ユーロ/1kgといった具合。夏トリュフになると80ユーロ/1kg前後で手に入れることもできます。しかし、”値段の差は芳香の差”とはっきり言い切れます。
パリにある老舗トリュフ店では、メラノの値段は季節の初めで、3,500ユーロ/1kg、年末のパーティシーズンになると7,000/1kg から8,000 /1kgユーロまで上がるといいます。同じ国でもやはり生産地と都会では値段も天と地の差! 白トリュフになると4,500/1kg から12,000/1kgユーロにまでなるそうですよ。
ちなみに、メラノの買い時は年明け。パーティシーズンが過ぎて値もグンと下がり、熟成し一段と香り高くなります。
ぜひ一度、トリュフ市で最高のトリュフをひとつ、バゲットとバターと粗塩を買い込んで宿泊先の部屋で一杯・・・なんていかがでしょうか。ご機嫌な旅の思い出になること間違いなしです。
そして、編集部からのお知らせ。
2022年1月16日の地球カレッジは、ムーケさんが経営するトリュフ農園で、辻仁成が初トリュフ狩りに挑戦することに・・・。
ご興味のある皆さま、オンライン・ツアーにご参加ください。
ムーケ・夕城(トリュフ栽培士)×辻仁成「ブラックダイヤモンド、黒トリュフの魅力」辻仁成がトリュフの聖地ドルドーニュにて、トリュフ狩りに初挑戦
2022年1月16日(日)20:00開演(19:30開場)日本時間・90分を予定のツアーとなります。
【48時間のアーカイブ付き】
※アーカイブ視聴URLは、終了後(翌日を予定)、お申込みの皆様へメールにてお送りします。
この講座に参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ
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※ フランス南西部に位置するドルドーニュ地方の山奥に位置するトリュフ園からトリュフの魅力を御覧頂く予定の生配信を準備しておりますが、天候など様々な理由で一部変更になる可能性もあります。山奥にある、広大なトリュフ園からですので、電波が乱れる可能性もございます。最大限の状況を模索しながら、当日、トリュフ犬と栽培士さんらと力を合わせ、挑む形になります。嵐にならない限りは決行いたします。
Posted by ムーケ・夕城
ムーケ・夕城
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トリュフ栽培士
トリュフ園所有。トリュフ栽培協会会員。Best of Perigord主催。土やガラスを使った創作活動も行う。パートナーはフランス人ミュージシャン、ディープ・フォーレストのエリック・ムーケ。自宅スタジオにやってくる音楽関係者のレセプションも担当。2児の母。