PANORAMA STORIES
欧州音楽事情2 Posted on 2016/11/12 河井 留美 音楽プロデューサー パリ
あのバタクラン劇場が今日、再開する。
11月のパリは長い冬のはじまりで、連日灰色の空に覆われ日照時間の短い1年で一番淋しい月。
9日はトランプ氏が大統領に選出され、その灰色が一気に世界に広がったような何とも奇妙な1日であった。
この先いったいこの世界はどうなるのだろう。
その不安に拍車をかけるように、
13日、去年11月にパリで起こった同時多発テロからちょうど1年を迎える。
あの日パリは大きな衝撃を受けた。
オランド大統領は国として3日間の服喪を宣言し、警備体制を最高レベルに引き上げ非常事態宣言をだし、
街から人が消えた。
これからパリはどうなるのか? ヨーロッパは? パリ市内でのテロに市民は動揺し困惑しながら、私たちは暫くの間息を潜めて生きた。
しかし市民革命の国、フランス。
ニースをはじめ各地でテロが繰り返されたが、フランスは強い団結心に包まれ、この1年、頑張ってきた。
あれから1年。
テロの現場となったバタクラン劇場は今日、12日に再開する。
こけら落とし公演はスティングが行ない、その後もユッスー・ンドゥール、マリアンヌ・フェイスフルなどが続く。
素晴らしいニュースではあるまいか。
この劇場の管理者はまだフランスの音楽業界の事を何もわかっていない頃の私にいろいろな事を丁寧に教えてくれた恩人の一人でもある。
劇場支配人ジュール・フリュトスはPRODISS(ヨーロッパのコンサートプロモーター協会)の代表であり、とても正直で感受性の鋭い人。
数多くのアーティストを育てた素晴らしい実績を持つ。
彼はあの惨事と修復工事を経てバタクランを再開するにあたり、ヘッドライナーとなるアーティストを探していた。
ポリスの初期にバタクランでコンサートを行った事のあるスティングは、この象徴的な日の出演へのオファーを快諾したのだと言う。
去年12月にU2はパリで追悼コンサートを行った。
ゲストとしてあの日バタクロンに出演していたイーグルス・オブ・デス・メタルが出演し、
パティ・スミスの名曲「People Have The Power」(人には力がある)を熱唱した。
あの日会場全体が巨大なエネルギーで溢れていた。
その後6月には東京の会場でパティ・スミス本人の歌う同曲が力強く響き渡った。
この2本は間違いなく近年私が観たライブの中で最も「エネルギー」を感じたライブであった。
私は音楽の力を、そして文化の力を信じている!
Photography by Rumi Kawai (except 1 & 4)
Posted by 河井 留美
河井 留美
▷記事一覧Rumi Kawai
音楽プロデューサー。1990年代よりフランス音楽に携わり、クレモンティーヌ、カーラ・ブルーニ、シルヴィ・ヴァルタンなどを日本に紹介する。最近では日本のアーティストのヨーロッパ公演のコーディネートも多数。