JINSEI STORIES

滞仏日記「ただ、歌えばいい、ただ、寄付金を集めればいい、ということでは終わらない」 Posted on 2019/04/25 辻 仁成 作家 パリ

 
某月某日、ノートルダム大聖堂チャリティーコンサートを計画したまではよかったが、現実的にいろいろ難関にぶつかっている。まず、日本とフランスの興行の違いがあり、日本だと誰でもライブハウスと交渉できるが、フランスは興行権利を持っている会社しかブッキングできない。つまり誰でも彼でもライブハウスでコンサートをやることが出来ないのだ。これまで僕がパリで行った数回のコンサートは興行権利を持つフランスのエージェントを通してやらせてもらってきた。でも、今度はチャリティなので、彼らと組むことが出来ない。そこでパリ在住、アミューズランティスヨーロッパ社の伊東美晃の登場となった。もっともチャリティをやろうと言い出した張本人でもある。ピガールにある「ラ・ブール・ノアール」を6月1日抑えることができた。数年前、布袋寅泰氏がライブをやった会場でもある。場所は駅前で、ムーランルージュのすぐ隣、行き来の便はいい。クレモンティーヌのマネージャーの河井留美さんが制作を手掛ける。日仏を股にかけるゴッドマザー的存在で30年来の友人だ。彼女が動くことでフランスの音楽業界に大きなメッセージを送ることも出来る。僕らは製作委員会を結成し、そこで運営することになった。集まったお金はライブの翌日に清算し、募金する。募金の報告は製作委員会で運営するFBですぐにやる。で、この日のライブタイトルが決まった。「NUIT SOUL SAMURAI MUSIC」(魂の侍音楽の夜)だ。どこがノートルダムなのだと突っ込まれそうな素敵なタイトルだと僕は一人勝手に喜んでいる。
 

滞仏日記「ただ、歌えばいい、ただ、寄付金を集めればいい、ということでは終わらない」

しかし、6月1日まで一月ほどしか時間がない。チケットはどこで売るのかということが次に問題となった。チケットぴあとかチケットローソンのようなものがフランスにもある。フナックという電気屋さんがやっているFnacチケットが最大手なのだけど、依頼して審査を通るまでに10日間もかかる。そこでルミさんのスタッフの康子さんがWeezeventというライブポケットのようなところを見つけてきた。ここだとすぐに販売が出来るし、購入者はチケットを自分で印刷して会場に持って行くだけ。フライヤーは僕らの方で制作することになり、なんとなくデザインをやった。印刷所を探しているのだけど、どこも結構高い。千枚刷って5万円もかかる。チャリティコンサートだからこそお金をかけないで経費を最小限に抑えないとならないのに。明日は格安印刷会社を探し回ることになりそうだ。

たくさんの人に来てもらわないとならないので、僕らはスポンサーも探した。といっても話が急なので大手企業の結論を待つ余裕がない。僕はパリで活躍する仲間たちに連絡をいれた。モンマルトルに和食店を出す京都の技魯技魯の枝國さんは「あ、いいですよ~」と一発OK!ヴァンドーム広場で時計店を展開する静岡の安心堂の支配人の大村さんも「喜んで手伝わせてください!」と一発OK。オペラのチーズの久田さんも「何言ってるんですか、もちろんですとも!」と快諾してくださった。お金を貰うのじゃない、チケットを各自20枚ずつ買い取ってもらうというスポンサードである。それだけでも有難い。300席ほどのライブハウスなので、この短期間で満杯にするためにも様々な協力が欠かせなかった。どうせやるなら中身を濃くしたい。一昨日日本文化会館にも連絡をいれた。「日本がフランスに寄り添っていることを民間の僕らがやるのだから日本文化会館の協力をぜひとも仰ぎたい」とジャポニスムで親しくなった鈴木さんにメールをしたら今朝がた、「素晴らしい計画なので協力させてください」とのメッセージを貰った。僕はガッツポーズを決めた。なぜなら、日本文化会館には日本好きなたくさんのフランス人ファンがいる。文化会館が発行する会報の片隅に案内を小さく掲載させてもらうだけでも大きなメッセージを送ることが出来る。同じようにパリには日本好きなフランス人へ向けた無料新聞がたくさん存在するので、すぐにでも連絡を入れたい。人がいないのでそれをやるのも自分や仲間たちだ。でも、ただ、歌えばいい、ただ、寄付金を集めればいい、ということでは終わらないので、僕らは奔走している。東北大震災の時にフランス人がノートルダム大聖堂に3千人も集まってくれたことが在仏の僕らの強い心の支えとなった。僕は出演者だから、演奏する曲やメッセージについてミュージシャンたちとの話し合いを進めている。飛び入りしたいというミュージシャンも現れた。ノートルダムへの募金がきっかけだったが、僅か一週間ほどでここまで話が進んだことに僕らは不思議な連帯感を持ち始めている。正直、たいした額は寄付出来ないかもしれないが、ライブが終わった後、僕は投げ銭箱を持って会場を回る予定だ。ぜひ、多くの在仏日本人の皆さんにお越しいただき、寄付にご協力して頂きたい。チラシを置いてもらえるお店を探している。出来れば宣伝も手伝ってほしい。なんなら投げ銭もお願いします。こんなことを毎日思っているので、今日の日記に記しておきたい。
 

滞仏日記「ただ、歌えばいい、ただ、寄付金を集めればいい、ということでは終わらない」