PANORAMA STORIES
英国デザイン事情2 Posted on 2016/11/30 新立 明夫 プロダクトデザイナー ロンドン
考えてみれば、日本で暮らした時間より英語圏で暮らした時間の方がすっかり長くなってしまった。住めば都、という言葉があるが、自分にとって、今を生きているロンドンと、生まれ育った熊本は、どちらも故郷であることに間違いはない。
地理的には対極に在る英国と日本だが、似ているところは非常に多い。
騎士道と武士道の考え方もその一つ。いたわりあう人間同士の接し方、まわりくどい物事の表現方法など、共通点も多い。
「島国だから」という単純な理由だけではない。ただ、伝統を重んじる、古き良き物を長く大切にするという精神が日英両国人の心底にあり、それが人々の生活だけでなく、あらゆる魅力の継続へと繋がっているきがしてならない。
(リバリューニッポンプロジェクトにて展示)
僕自身は、長く英国で生活し、デザインという仕事を通して世界の様々な文化、言語、生活様式を自分の中に取り込んできた。
日本で形成された自分にこれらの経験を「上書き」していくのではなく、新しい発見やその都度感じた気持ちを素直に「追加」していきたいと思っている。
(フランス、サンティチエンヌのビエンナーレにて展示)
英国では80年代初頭からソフト重視の動きが顕著になり、デザイン等のクリエイティブインダストリーを国をあげてサポートしてきた。つまり、英国では対価に見合った”もの創り”を、いち早く価値と見い出したのである。やっと日本も ”もの作り”から”もの創り”へと意識がシフトしはじめた。
モノを作るだけではなく、モノを創作することが大事なのである。
(バルセロナでおこなわれた世界最大Mobile World Congressにて展示)
日本人は、生まれながらに枯れ葉をみて秋を感じたり、月を見て哀愁を感じたり、故郷を思って涙したりという繊細な感性を持ち備えている。私たちにとって秋に聞こえる虫の音色は季語であり、情緒でもあるが、英国人にとって虫の鳴き声は雑音でしかなく、季語でも情緒でもない。これは日本人が特殊な感性を持っている事を知る良いたとえであろう。日本人がおおいに自慢していいデザイン感覚(センス)なのだと思う。
欧州人にはないこの優れた能力をデザインに活用しないわけにはいかない。僕たちデザイナーが有形の提示だけでなく、日本人特有の感性を含めた表現を施していくことこそが、すばらしいデザイン提案となるだろう。
本人認証装置「magatama」
僕はいつも、海外に日本の良さをアピールすると同時に、日本には海外から発信されているものに興味を持ってもらいたいと思ってやってきた。そうすることで、「上書き」ではなくデータをたくさん「追加」した、いわゆるライフデザインを遂行していけるに違いないと考えている。
デザインには人を動かす力がある。デザインとは、感動も喜びも、後悔も悲しみも、全ての感情を表現できる素晴らしい手段なのだから。
Posted by 新立 明夫
新立 明夫
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プロダクトデザイナー。ロンドン在住。米国の大学卒業後、日本企業のデザイナーを経てロンドンのデザイン会社にて数々の国際的なプロジェクトに参加。2000年に独立し、ロンドンにてVOコーポレーションを設立。オートモーティブ関連や電子機器関連などのデザインで、主に日米欧のクライアントとのプロジェクトにて活動中。