JINSEI STORIES
滞仏日記「親子の絆を深める方法」 Posted on 2019/01/03 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、元日だけは休みだがフランス社会は2日より通常に戻る。
フランス人にとって日本人の正月という感覚はクリスマスの方が近い。新年にかわる瞬間はお祝いをするけれど、2日より官庁や銀行、会社などはだいたい通常業務に戻る。
昼間は旅行中の講談社のY君たちとランチ。
夕方は毎年恒例の新年会を我が家で催した。
買い物をしてクスクスや洋風おせちなどを作った。
息子がリクエストした若い家族を招いた。それぞれに4歳の少女と1歳の赤ちゃんのいる二家族。
息子が生まれたばかりの頃から親戚的付き合いのあるお兄さんお姉さんたちがそれぞれ結婚されてここパリで家族を構えた。
血は繋がっていないけれど親戚のような日本人家族であり、僕にとっては弟分や妹分のような人たち。
シングルファザーになってから辻家の支えになってくれた恩のある人たちでもある。
僕が日本で仕事のある時には泊まり込みで息子の面倒を見てくれたKさんはキュイジニエのY君と結婚をし、昨年女の子を授かった。
デザイナーのS君と奥さんのTさんには4歳の女の子がいる。
息子にとってはよく知る人たちが家族を作り、子供を育てている様子が何よりうれしかったのであろう、彼は終始笑顔であった。
そこに幸せの匂いを嗅いでいるのがわかった。
すると、本当に珍しいことだが、一歳の赤ちゃんを息子が抱き上げて膝の上に載せた。
慌てて携帯を取り出し写真を撮った。これは珍しい一枚となった。
新年会の後、片付けをしながら2Gチャンネル(息子と始めたYouTubeの動画チャンネル)の今後の番組方針について息子と話し合いを持った。
YouTubeを作ることで僕は親子の関係を深めたいと考えてきた。
さらには子供が自立するための、或いは社会を知るためのステップになればと願っている。
正直、それが始めた動機かもしれない。
息子が言い出しっぺで始まった2Gだが、昨日、アップしたリスボンのトラベル動画は一日で5000人の視聴回数を超えた。
旅動画を作ることを提案したのも息子であった。
「パパ、リスボンに行くなら撮影しようよ。携帯で十分なんだよ。
大事なことはドキュメントなんだ」それはいいアイデアだと思った。
面倒くさいと思わないことが大事なので、僕は「やろう」と同意した。自分の企画が形になり、反響もあって嬉しいようだった。
15人からのコメントがあり、その中で息子の編集や音楽を褒めているものがあった。
動画の最後に「music and editing by息子」と彼は自ら入れた。
こういう主張をするのも珍しいがそれだけ意気込みがあるということの裏返しでもある。
音楽も彼自身が編集ソフトを使って、実際に作曲を手掛けた。
彼の参加意識は強い。編集作業のやり取りにおいては妥協しなかった。軽く言い合いになった場面もある。だからこそ、コメントで褒められることは希望に繋がる。
毎回、そうとは限らないぞ、と忠告もした。
次の作品はパリのカフェ巡りがいいのじゃないかという話になった。「パリのB級グルメ巡り」「パリで話題のクロックムッシュ店巡り」などなどアイデアが次々に出た。
2Gをスタートして半年、いい感じになって来たと思う。
この活動は彼の将来(仕事ではなく生き方)に繋がると僕は強く確信している。親子の絆も強くなるし、僕の経験を彼に伝える絶好の場所にもなる。
彼自身の発言の場所も増える。
子供に勉強しなさいと言ったところで、漠然とし過ぎている。
子供が示す興味を伸ばしながらその才能を広げていければ一番効果的かもしれない。
親子関係も強くなる。YouTubeにはそういう可能性がある。
動画へはこちらから→ 「哀愁の都、リスボン | 2G TRAVEL」