PANORAMA STORIES
プロヴァンスの美しい村にみる 景観・町並みづくり Posted on 2021/09/02 町田 陽子 シャンブルドット経営 南仏・プロヴァンス
プロヴァンスと聞くと、一面に咲き誇るラベンダー畑や、搾りたてのオリーブの香り、広大な自然に囲まれ四季折々の美しい風景が思い浮かぶ。
豊かな自然と美しい景観がプロヴァンスの魅力の一つ。
その美しい景観に心奪われた数々の芸術家たちから、愛された「美しい村」としても知られている。
太陽に包まれたプロヴァンス地方。
個性豊かな村や町を訪ねながら、歴史の産物と語り合うのも楽しい。
プロヴァンスには美しい村や町がたくさんあり、特別有名なモニュメントがない場所にも、ツーリストが世界中から集まってくる。いわば、町や村そのものが観光名所。たしかに自然と調和した町や村の佇まいは、それだけで訪れる価値があるといえる。
高台から町を望むと、茶色の瓦屋根が密集し、周囲の自然とみごとに調和した風景に感嘆の声がもれる。
日本のお客様からは、「どうしてこんなに町並みがきれいなの?」「屋根の色が揃ってるのはなぜ?」といつも質問攻めにされる。そのたびに説明していることを、今日は私の経験を交えて書いてみようと思う。
まず前提として、景観に関するルールは各町で決められている。町によって、鎧戸の色のトーンがちがったり、外壁の種類が異なるのはそのせい。家の中は家主の好き勝手にできても、外側を改修したり建築・増築する場合は必ず事前に市庁舎に許可願いを出さなくてはならない。そこをおろそかにすると、終わったあとで「やり直し!」といわれかねない。
さて、私たちが現在の家を購入した際も、早々に市庁舎の都市計画課に出向いた。うちは町の中心の歴史地区に建っている。その地区の規定書を渡され見てみると、使ってはいけない素材、作ってはいけない建造物の種類(例えばアトラクションパーク、キャンプ場その他)、水道・火事・地震などに関連する禁止条項、建築の配置・地取り、建造物の高さなどについて図入りで細々と描かれている。
驚くのは、後半の外装に関するページだ。
例えば、正面ファサードは隣家に揃えて窓の位置や屋根の高さを配置せよ、瓦は勾配25〜35%で、古いプロヴァンスのカナル瓦を使うべし(見える部分だけでも古い瓦を使用のこと)、窓は木製でプラスティック製は不可・横長の窓は不可・格子のない窓は不可・色は鮮やかな色ではなくグレー調、玄関ドアは濃い色(緑・青・ボルドー色など)で白は不可、ニス塗りも不可、など延々と具体的に記されている。
瓦の勾配などは地域の気候によるもので、雪の降らないプロヴァンスではこの程度の勾配が妥当という判断だろう。山小屋風の家が好きだからトンガリ屋根にしたいと思っても、プロヴァンスでは速攻、却下。逆に雪深い北部に行けば、勾配がある家ばかりが並んでいる。
「景観、風景、自然に配慮」し、「調和を乱さず」「伝統的な町並みを守る」ためのルールが具体的に決められているのである。
フランスには、“景観”という大切な遺産を守ろうと1982年に発足した、「フランスで最も美しい村」協会が認定している村々がある。2018年12月現在、158の村が認定されているのだが、人口2000人以下、歴史的建造物または自然遺産を含む保護地区を2ヶ所以上もっている、歴史的遺産を所有している、歴史的遺産を活用・開発していることなどが選考基準。
うちの町の近くで認定されている有名な村といえば、ゴルド。「天空の城ラピュタ」のモデルになったともいわれる、断崖の上に築かれた小さな村。オリーブやブドウ畑が広がる大地の上に、まさにそびえるように威風堂々と立っている。じつはここ、以前は皮製品の製造で3000人以上が住んでいた活気ある村だったそうだが、1909年に起きた地震の被害で完全に過疎化してしまった。戦後に村の復興が始まり、70年代以降、観光地化が急速に進んだ。いまでは、春のイースターから10月までの半年で100万人の観光客が訪れるという(年間の数字だが、冬はホテルも閉まり、観光客がこないので実質的には半年)。
村の復興が成功したのは、本来の村の姿を取り戻すことを最優先したから。ゴルドでは、20㎡以上の改築にすら建築許可が必要で、許可が下りるのに3ヶ月以上かかるらしい。石が少なくなっている現在、伝統の石積みと同じ方法をとるのは難しいが、ブロックと石で二重の壁を作る方法が奨励されている。その際、石は地元産を使用、石の並びは水平に、接着は石灰か石の色に近い砂を使用、など規則がある。もちろん、看板やアンテナなどは厳禁だ。
その結果、ここには近代的な建物は一つもなく、伝統の石積みの家しか建っていない。新築の家も石積みなので、古い家と馴染んで、まったく目立たない。庭の木ですら、オリーブ、糸杉、西洋ボダイジュ、といったプロヴァンスに昔から存在する木だけ。自然発生的にそうなったのではなく、すべて規制されているのである。そして、人が集まり、別荘地として不動産の価値が上がり、パラスホテルが建ち、税金が落ち、仕事が生まれている。もし、例えば、カリフォルニア風のコンクリートの邸宅にパームツリー、などが許されていれば、まちがいなく、皆が好き放題にして、プロヴァンス的な景観は失われているに違いない。だって、フランス人が皆、昔の風景を保存しようという意識を持っているわけじゃない。コンテンポラリーが好きな人も多いし、無関心な人だっているのだから。
サナリー・シュル・メールという港町も、かつてすばらしい決断を下した町。70、80年代、近隣のバブリーな港町の開発には目もくれず、プロヴァンス伝統の木製の船(ポワンチュウといいます)は停泊無料と決めた。それにより、この港にはカラフルでかわいい昔ながらの小舟が集まり、昔ながらの景観が蘇った。なんて頭がいい! お金を一銭もかけずに美景観を実現した最高の実例だと思う。豪華クルーザーばかりが並ぶ他の港とは一線を画し、風景自体が観光資源になっている。地元民にも「プロヴァンスでいちばん暮らしたい港町No.1」の人気の町となり、マルシェも人も活気にあふれ、パーキングもいつも満車。今頃になって近隣の港も真似しているが、長い年月をかけて作り上げてきた町の美しさにはかなわない。
町をデザインするには、長い目を持つことがなにより必要だと、プロヴァンスであらためて感じている。さて、100年後、あなたの町はどんな姿であってほしい?
Posted by 町田 陽子
町田 陽子
▷記事一覧Yoko MACHIDA
シャンブルドット(フランス版B&B)ヴィラ・モンローズ Villa Montrose を営みながら執筆を行う。ショップサイトvillamontrose.shopではフランスの古き良きもの、安心・安全な環境にやさしいものを提案・販売している。阪急百貨店の「フランスフェア」のコーディネイトをパートナーのダヴィッドと担当。著書に『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』『南フランスの休日プロヴァンスへ』