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中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ Posted on 2018/11/18 辻 仁成 作家 パリ

僕は自宅に人を招いて料理をふるまうのが大好き。最近は料理の腕を買われて出張料理人を依頼されることも増えてきました。人の家のキッチンで料理をするコツなど、ホームパーティでの料理の準備や料理手順について辻式の極意を今日は指南したいと思います。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

さて、今回は僕と同じ頃からパリ在住の中村江里子さんのご自宅で、彼女の主婦仲間たちを集めてのランチパーティが行われました。

まず料理人としては人数にあったレシピを考案することからはじめます。ゲストは中村さんを含めて5人。5人ならばそんなに多くありません。けれどもワイン好きな方や料理研究家など中村江里子さんのお友だちというのはちょっと手ごわい感じの方が多いこともリサーチ済み。息子の友だちたちにスパゲッティを出すのとはわけが違います。このパリマダムたちをノックアウトさせるものを出さないことには出張料理人の名が廃るというものです(笑)。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

まず、ランチですから軽めでありながら満足感のある小さめのコースを考えました。毎年開催しているディナーライブは最近人数も増えてきまして、多い時は最大100人ほどになります。今回は5人、かなり気分的には楽。ですから、作りながら一緒に食べることのできるコース料理を創作してみました。中村江里子さんもそのことを考慮してくださり、キッチンから離れた食堂ではなく、キッチン内のテーブルにカトラリーをセッティングしてくださったのです。といっても、中村邸は我々の想像を遥かに超える物凄いお屋敷です。天井まで4メートルはあるでしょうか、まるで5つ星ホテルのようなゴージャスなお宅だったので、キッチンといっても普通の家のサロンくらいの広さがありました。オーマイゴッド(笑)! テーブルを囲む形で調理場が一周していたんです。羨ましいキッチンでした。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

ホームパーティで一番よくないのは料理をする人=主催者がみんなと離れて料理をするため、一緒にご飯を食べることができないこと。招かれた方も料理をしている人に気を遣います。一緒に食べましょうよ、と言いたいのだけど、じゃあ、誰が作るのよ、ということになるからです。そこで僕からの提案ですが、人を招く時には下準備に時間をかけ、たとえば温めるだけで済むようなもの、配膳も簡単にできるもので構成するのがいいでしょう。ホームパーティであれば皆さんに手伝ってもらってわいわいやるのも楽しいですね。今回はちょっとフォーマルなパーティなのでそこは最大限無駄のない動きで配膳も食事も招いた方に気を遣わせない方法を選びました。まず、料理はほとんど前日と当日の朝に仕込んでしまいます。そのためにたくさんのタッパーが必要となります。頭の中でどれとどれをどのタイミングで出せばいいのかを計算することも大事ですね。

では、この日のメニューをここでご紹介します。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

アミューズの塩鱈のリエットは前日に作り置きが可能なので作ってタッパーに入れておきます。これはトップバッターなので切ったパンにリエットを塗り、実山椒や生ハム、マスの卵を載せたら完成となります。テーブルに出してちょっと蘊蓄を語った後に乾杯し、皆さんが味わっていただいている間に次の料理に着手するという手順です。時間稼ぎの役割も兼ねています。

さて、このメニューの中で前日仕込みはアミューズの塩鱈のリエットとマス卵の漬け、前菜の鮪の漬けの漬け汁、ポン酢のジュレを仕込むこと、メイン1のクルミだれソース(メニューにはゴマダレとありますが、クルミのいいのが手に入り直前に変更)、メイン2のグーラッシュ(これは煮込み料理)、デザートのブランマンジェです。

当日の朝の仕込みは、前菜の鮪をカットし漬け汁に漬けること、酢飯を作ること、メイン1の鴨をニンニクと焼いてオーブンで火を入れること(ここではカットしない)、だけなのです。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

さて、じゃあ、中村邸でやることは? 
皆さんと喋りながら、アミューズはパンにリエットを塗りマス卵と生ハムを載せ、前菜は小皿に酢飯、鮪、生クリーム、ジュレの順で盛り付け、メイン1は蕎麦を茹で鴨肉を薄くカットしそこにクルミダレをかけ、メイン2は中村邸に入った時から弱火で温めておいたグーラッシュを皿に盛っておしまい。そして、デザートは柿を切り、ブランマンジェに加賀棒茶のシロップをかけて出すだけ。

どうでしょうか? 完璧な流れじゃないですか? これらを前もってイメージすることがまずとっても大事なこととなります。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

キッチンの中央にテーブルがあるので、料理を盛り付けているところだけでも一種の演出効果があり、ゲストの皆さんを目で楽しませることができます。下準備は全て終わっているので作っていると言ってもそれは特に髪を振り乱したり汗を流したりのレベルではありません。皆さんと話をしながら割と優雅に料理を提供することができ、お客さんたちの満足度も高いというわけです。
もしも自宅に誰かを招いて楽しい料理会を開く計画があるのであれば、このように前日、当日、その場の三つの段階で料理行程を分けて準備をしたらいいでしょう。お客さんと和やかに話をしながら退屈させることもなく楽しいパーティをオーガナイズすることができるのです。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

さて、いかがでしたか、出張料理人によるホームパーティの極意をお届けしました。近々、中村江里子さんの人生について私がしっかりとインタビューをさせていただきますので、こちらもお楽しみに。
 

中村江里子邸でのホームパーティ~出張料理人の極意と愉しみ

 
 

Posted by 辻 仁成

辻 仁成

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Hitonari Tsuji
作家。パリ在住。1989年に「ピアニシモ」ですばる文学賞を受賞、1997年には「海峡の光」で芥川賞を受賞。1999年に「白仏」でフランスの代表的な文学賞「フェミナ賞・外国小説賞」を日本人として唯一受賞。ミュージシャン、映画監督、演出家など文学以外の分野にも幅広く活動。Design Stories主宰。