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豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。 Posted on 2018/12/11 船橋 知世 ガイド・コーディネーター パリ

朝、いつものようにメールを開くと、フランス日本語ガイド協会からのメール。「豪華客船オーシャンドリーム号がノルマンディーの港町ル・アーブルに停泊し、日本人の団体観光客が半日市内バス観光を予定している。そのガイドをやってほしい」という内容だった。私は少人数を専門とするフリーランスガイドなので団体旅行の経験は一切ないし10人以上の人前で解説をしたこともない。なのにガイド協会は「大丈夫です!」と背中を押した。

ガイド業務の当日早朝、パリから電車に乗ってル・アーブルへ。
実はこの旅、私一人ではなく、彼氏のネズミ(フォトグラファー)も同行していた。なかなかできないガイド経験なので、こっそりとガイディング風景を撮影してもらうことにした。同行者は隠し撮り係ネズミだけではなかった。豪華客船には1400人以上乗船しており、私が担当するのはその中の一握り。別ツアー担当の先輩ガイド達も同じ電車に乗り合わせていた。彼氏だと紹介して嫌味を言われるのが嫌だったので、ネズミのことはフォトグラファーとだけ説明した。途端に女先輩ガイドさんがネズミをナンパしはじめるのだが、口出しはできない。
 

豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。

ル・アーブル到着後、すぐに港へ。すると目の前に視界に収まりきらないほど巨大なオーシャンドリーム号がそびえ立つ。三つのプールを含むデッキスペースを持つというだけある。アジアや地中海、ヨーロッパ、そしてカリブ海と全25寄港地を106日間で回るその旅に参加する人達とはどんな方達なんだろうといい緊張感を感じる中、早速乗船している添乗員さんたちと打ち合わせをした。
天候や要望に合わせて一緒に車窓観光するルートを決め、下車してから観光する場所の順番を確認し、タイムスケジュールを殴り書き。ネズミには情報を携帯から送り、待機時間や場所を指定した。
 

豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。

バスの運転手に挨拶すると、運転手は「ル・アーブルを運転するのは初めてで土地勘もない」と不満をもらす。行先危ぶまれると思いつつも、お客様たちは前泊地のバルセロナから、私はパリから、すれ違うはずのない人々が同じ一台の大型バスに乗り込んだ。

高台からみる海の景色で有名なサンタンドレス界隈は坂と急カーブが入り組み別荘地として名高いエリアで、若き日のモネも描いている。当日は天気がよかったので車窓ツアーをしたが、豪華客船のお客様を乗せたどでかいバスが、乗用車一台がぎりぎり通行可能な細道を強引に走行する。案の定、急カーブを曲がりきれずに立ち往生し、おまけに300メートルほどバックで登坂し始めた。
 

豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。

<高級リゾートのサンタンドレスの海岸沿いは美しい遊歩道で、
画家が描いたポイントではどのような絵画が描かれたのかが鑑賞可能となっている>

 

豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。

<長い海岸線では人々がゆったりとした時間を楽しんでいる>

 
なんとか危機を抜け出し、今度は色とりどりに輝く海水浴場エリアへと進む。添乗員さんとの事前打ち合わせの際に、「今回は唯一のフランス滞在なのでフランスらしいお土産が買えるところに連れて行ってほしい」との希望を聞いていた。視察時にお土産スポットや公衆トイレを把握するのはガイドの定め、しかし単発ツアーとなると、どこに何が売っているのかまではわからない。とりあえず、「地方産物はキャラメルと、りんごと、バタークッキー」と、解説。お土産ショップにそのまんま取り揃えられていたのを見た時は救われた気持ちになった。

市内中心地が世界遺産に認定されているル・アーブルの観光目玉は、鉄筋コンクリートで計画的に作られた戦後の近代建築にある。美しいかどうかを問われたら正直答えには迷うが、他に類をみない個性的な都市であることは間違いない。世界大戦に興味があるのであればなおさら興味深い都市でもある。
灯台のような形をしたサン・ジョゼフ教会は特に美しい教会として有名で、今回の見学地にも含まれる見どころ。教会の解説中に遠くからニコニコ撮影しているネズミの姿が目に入る。
 

豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。

<サンジョゼフ教会>

 
その後は印象派の作品が多く、また地方の美術館としてはハイ・クオリティーの作品を収蔵するアンドレ・マルロー美術館へ移動し、 作品を解説。お客様からの質問も積極的で造詣も深く、答える立場としてもいい挑戦となった。
とてもいい雰囲気の中、案内は終了し、再び豪華客船船着き場へ。そして豪華客船は次の目的地、サンクトペテルブルグへ。
 

豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。

ガイド終了後、私は先輩ガイドさんたちのお誘いを断り、隠し撮りフォトグラファーのネズミと合流した。
無事に業務完了したお祝いに海の見えるレストランに入る。テラス席でリラックスしていたら隣に一人できていた地元客と話が弾み、よくよく聞いてみると、ノルマンディー上陸作戦でオーストラリアからやってきた兵士を祖父に持つという。私はガイドだと自己紹介すると、彼が30年間市役所に勤めながら個人的に収集・編集したというル・アーブルの歴史というCDをいただいた。
ガイドという私の仕事は歴史的事実を伝えるだけでなく、人々の気持ちを受け取りそして伝承していく仕事なのだと実感した。幸せな気分に浸りながら、ル・アーブル名物のオマール海老を堪能したのだった。
 

豪華客船ツアーもやってくる!ノルマンディの港町 ル・アーブルガイドの1日。

<ノルマンディーではゆでたオマールを手作りマヨネーズでいただく>

 
 

Posted by 船橋 知世

船橋 知世

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Tomoyo Funabashi
ガイド・コーディネーター。群馬県出身。フランス在住13年。もともとフランスの地方に住んでいて、最初からパリに興味があったわけではないのですが、舞台美術と衣装デザインの仕事の関係で2011年よりパリに住むことになりました。アート、グルメ、ファッションなどあふれるパリの素晴らしさに触れ、ヨーロッパ史等を勉強していくうちに「ガイドの仕事が向いている」ということに気がつき心機一転。みなさんにパリを楽しんでいただけるよう、がんばります。