THE INTERVIEWS

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。 Posted on 2018/08/11 Design Stories  

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

 
大航海時代、世界を旅する船には守り神の猫が飼われていました。この猫は、ねずみを退治するだけではなく時に長い航海で疲れた船員の心と魂を癒し、または船の守り神として大切にされたのです。世界各地を旅するSHIP’S CATの目を通して困難なこの時代を乗り切ろうとする人類の未来を創造します。
日仏友好160周年、京都・パリ友情盟約締結60周年を記念して行われる「SHIP’S CAT」展は、パリ・ルーヴル美術館に隣接するカルーゼル・デュ・ルーヴルにて8月22日より28日まで開催されます。
コラボレートするアーティストは和紙アートの第一人者、堀木エリ子氏と現代アート界で人気を博すヤノベケンジ氏のお二人。ビッグイベントに先立ち、この話題の二人の意気込みをお聞きしました。
今回のザ・インタビューは、特別対談「新・航海時代のSHIP’S CAT! 堀木エリ子xヤノベケンジの意気込み」をお送りします。
 

 
堀木エリ子氏(以下、「堀木」敬称略) まずはヤノベさん、「SHIP’S CAT」は一体どのようにして誕生したのでしょうか?

ヤノベケンジ氏(以下、「ヤノベ」敬称略) もともと、巨大な猫の彫刻シリーズ「SHIP’S CAT」は、福岡県の博多にあるホステル「WeBase 博多」に常設するパブリックア―トとして考案し、制作を開始したものなのです。日本最古の湊であり、海上交易の拠点として、船乗りたちが行き交った博多をイメージし、大航海時代の船乗り猫”SHIP’S CAT”に着想を得ました。猫は、古代日本でも中国から運ぶ仏典や宝物を守るために、一緒に船に乗せられ、日本中に広がったと言われています。そこで、猫の巨大で未来的なモニュメントを作ることで、ホステルに泊まる世界中の若い旅人の道中を見守り、幸運をもたらすように願いを込めました。

堀木 素晴らしい着想ですね、昨年7月に博多に誕生した猫が、短期間の間に様々なところで活躍をしてきたと伺っていますが?

ヤノベ そうなんです。その後、「旅の守り神」、「旅をして福を運ぶ猫」という作品解説に導かれるように、「SHIP’S CAT」のシリーズは、震災を経た福島、東京の巨大商業施設、古都鎌倉、大阪駅前の広場など日本各地で展示されてきました。今回、京都のホステル「WeBase 京都」にも新たな「SHIP’S CAT」を、という話を頂戴し、そこで堀木さんと出会ったわけです。当初は別々に作品をという事でしたが、堀木さんのショールームで作品を解説付きで見せて頂き、光によって様々な表情の変化を見せる手すき和紙の素晴らしさに、一緒に作品を作りたいと思いました。
 

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

 
堀木 私は、「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに活動をしていて、和紙という一つの素材に向き合って、今年、31周年を迎えました。日本の伝統産業を現代の要望に添って活かし、和紙の魅力や可能性を世界へ、次世代へと送り出せるようにと考えて、2つの方向性で制作をしています。
1つは、福井県の越前和紙の工房で、伝統的な手法でタタミ3畳分の大きさ(2700×2100mm)の和紙を制作することです。これは、職人さんとのコラボレーションで、伝統を未来に繋いで行く仕事です。
もう1つは、京都の自社工房で、革新的な手法を開発することで、現代の革新を50年後、100年後の伝統に育てていくという仕事です。更に、その2つの方向性の和紙を、燃えない、汚れない、破れない、退色しない、精度をあげるというように、二次加工によって、現代の要望に沿った用途や機能を与えていくための開発もしています。和紙作家としての表現も大切な仕事ですが、私は、職人として、技術者としての役割も担っています。このコラボレーションでは、新しい挑戦として是非ご一緒させて頂きたいと思い、私は職人としての役割で係わらせて頂きますと申し上げました。

ヤノベ 堀木さんの気迫、良く覚えています(笑)。今回、堀木エリ子という、和紙を使ったアートの第一人者とコラボレーションを行う機会に恵まれ、巨大な猫の絵巻物「Picture scroll of SHIP’S CAT」や彫刻「SHIP’S CAT(Totem)」等を作りました。「Picture scroll of SHIP’S CAT」には、古代エジプトのパビルスなどをイメージしながら、古代の猫の神バステトと未来の猫の神「SHIP’S CAT」の出会いと歴史を象徴的に描いています。これらの作品制作のためのプロフェッショナルな仕事は、堀木さんの工房の職人と、私がディレクターを務める京都造形芸術大学の立体工房ウルトラファクトリーに集う学生たちに共同作業でお手伝いをいただきました。堀木さんの工房はまさに職人の工房という感じがしました。堀木さんの指示のもと緊張感が漲っていましたね。学生も普段にはない張りつめた空気感の中での作業になり、素晴らしい刺激を受けたと思います。
 

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

 
堀木 私は、通常は、具象的なものよりも抽象的な作品を造ることが多いので、このコラボレーションは、私にとっても新たな挑戦となりました。また、作品制作にあたり、ヤノベさんが教鞭を執る京都造形大学のウルトラファクトリーに集う学生達と協働することによって、若い世代に伝統産業のものづくりに触れていただくきっかけが出来たことは、大変有意義なことでした。ところで、ヤノベさんの本展覧会への思いを、もう少し詳しく聞かせていただけますか。

ヤノベ 今回、京都のホステルのために作られた作品が様々な方の努力により、フランスと日本、パリと京都の記念すべき佳節に、美術展として出品することになり、フランスのル・アーヴル港まで船で運ばれることになりました。まさに、”SHIP’S CAT”が現実化することに深い感慨を覚えています。猫は古代エジプトにおいて、ネズミなどの害獣から守る益獣として飼われたことをきっかけに、家畜やペットとして現在まで人間と共存してきました。そして、ネズミ退治のために船に乗せられたことにより、世界各地に広まったとされています。つまり「猫」と「船」と「旅」は切り離せない要素なのです。さらに、カルーセル・デュ・ルーヴルに隣接するルーヴル美術館には、古代エジプトの女神バステトが雌猫の彫像として展示されています。バステトは、雌ライオンの姿をしていましたが、後に雌猫としても描かれるようになりました。猫は古代から愛玩されると同時に、神格化される動物だったといえます。日本では、手招きをする猫の彫像が、福を呼ぶ招き猫として普及しています。古代エジプトの文化は、はるか遠い道のりと海を渡って日本にも伝わったといえるかもしれません。「SHIP’S CAT」のシリーズが、カイロ美術館に次ぐ古代エジプトコレクションのあるルーヴル美術館と同じ敷地内に展示されることに、旅立ちの地に戻るような強い必然性と運命を感じています。また、日本が西洋諸国と本格的に貿易を始めた19世紀半ば以降には、日本の多くの美術工芸品がヨーロッパに伝わり、”ジャポニスム”として流行いたしました。その影響は、印象派やアールヌーボーとして結実しました。ジャポニスムの大きなきっかけとなった「浮世絵」が、「和紙」に刷られたものであるということも忘れてはならないでしょう。紙もまた、大陸から日本に船で運ばれて伝わり、「和紙」となって独特な文化を育んできました。京都には日本の伝統文化が息づくと同時に、国内外から多くの人々が観光やビジネス、勉学のために集っています。そこで新たな出会いが生まれ、再び日本各地、世界各国に旅立っていきます。彼らはまさに現在の冒険者であり、”SHIP’S CAT”とイメージが重なります。
 

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

 
堀木 和紙による「SHIP’S CAT」の作品は、カルーゼル・デュ・ルーヴルで展示された後、京都に戻りホステル「WeBase 京都」に常設展示されるそうです。そこは日本三大祭りの一つである祇園祭の山鉾でいえば「岩戸山」を擁する町でもありますね。

ヤノベ はい。山鉾には桃山時代から江戸時代にかけて伝わった西洋のゴブラン織などが飾られ貴重な文化遺産となっています。それらはまさに大航海時代の”SHIP’S CAT”とともにもたらされたものであり、当時渡って来た猫の子孫も数多く存在しているに違いありません。「岩戸山」は、日本の太陽神、天照大神の物語に由来しています。古代エジプトでは、猫の頭を持つ女神バステトが、太陽神ラーの娘、あるいは妻とされており、太陽の女神という繋がりも感じています。私は、1990年代から「太陽」をモチーフに作品を制作しており、日本古来の太陽信仰もまた、古代エジプトから猫に伴われて運ばれてきたのではないかとイメージを膨らませました。そして、猫を媒介として、古代エジプトと日本の文化が、時空を超えてフランスの美の殿堂ルーヴル美術館の足元で出会うという壮大な物語を本展に込めました。これらの思いを込めた今回の作品ですが、手すき和紙の手法でどのように作られたか、皆さんは興味津々だと思います。そのお話しを堀木さんから是非、お願いします。また、堀木さんの本展覧会に対する想いも聞かせてください。
 

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

 
堀木 平面表現の「Picture scroll of SHIP’S CAT」は、W7,800×H2,700mmで漉き上げた、継ぎ目のない大型創作和紙です。越前で職人さんとタタミ3畳分の大きさ(W2,700×H2,100)で漉き上げた和紙を、ヤノベさんが切り絵のようにカットし、それをさらに京都の工房でW7,800×H2,700mmの和紙の中に漉き込む手法で作り上げました。楮の繊維や糸を漉き込んだり、部分的に水滴を投げつける手法で、和紙独自の質感を強調しています。
立体造形の「SHIP’S CAT(Totem)」「SHIP’S CAT(Thinker)」「SHIP’S CAT(Sleeper)」は、立体的に和紙を漉き上げています。
骨組を使わず、糊も使わずに、立体に成型された樹脂の上に和紙を漉き上げていくという独自の手法です。楮の繊維を漉き込んで、繊維の方向性や密度に変化を与え、陰影による表現をしています。私自身の作品については、「SHIP’S CAT(Totem)」を囲むように直径10mの和紙による光床「陽光(YOUKOU」を配置します。他に、「SUN」と「MOON」というW15,000×H3,000mmの1枚漉きのタピストリーを2枚展示します。
地球上のすべての命を育み、エネルギーを与えてくれる太陽や月のモチーフは、多くの私の作品のテーマとなっています。「SHIP’S CAT」展では、航海にとっても大切な道しるべとなる太陽や月のモチーフと和紙独自の温かな空気感が、コラボレーション作品へと導いてくれることと思います。
私は、和紙をモノとしてではなく、環境として捉えています。和紙そのものよりも、むしろ和紙のこちら側の空気感や和紙の向こう側の気配をどう作るかということが重要な仕事だと考えています。日本の伝統文化である和紙の、独自の空気感や、ライティングによって移ろう気配を、世界中の方々に感じていただきたいと思っています。人と人、時代と時代、場所と場所が影響し、影響されて、あらたな独自の作品が生まれ、その時代の文化を作っていきます。この展覧会が見る人に影響し、私達も影響をされて、未来の素晴らしい文化交流や、伝統産業の発展へと繋がっていくことを、心より祈念しております。

ヤノベ 僕も、旅する猫をテーマにした本展が、過去と未来、東西南北の文化交流の象徴となり、ジャポニスムを回顧するだけではなく、新たな文化や人々の出会いを誘うきっかけとなることを切に願っております。
 

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

Photo Satoshi Asakawa

新・航海時代のSHIP’S CAT!ヤノベケンジ×堀木エリ子「SHIP’S CAT」展への意気込み。

Photo Satoshi Asakawa

 
 
〜現代美術作家ヤノベケンジ×和紙作家堀木エリ子「SHIP’S CAT」展〜

パリ、カルーゼル・デュ・ルーヴル 「サルスフロ・ホワイエ」
入場無料

京都を活動拠点とする二人のアーティスト、現代美術作家ヤノベケンジ氏と和紙作家堀木エリ子氏の作品展。全長3mの巨大猫の彫刻「SHIP’S CAT」と、和紙の障子絵(H2700×W7800)および和紙による彫像等を展示。現代アートと日本伝統文化の手すき和紙のコラボレーションによる巨大創作アートは世界初の試み。
 

——————————————————————
ヤノベケンジ(現代美術作家・京都造形芸術大学 教授)

プロフィール: 1965年12月6日生(現在52歳)。ユニークな機械彫刻や巨大彫刻を制作する日本を代表する現代アーティストの一人。村上隆や奈良美智らと並ぶ、ジャパニーズ・ポップアートの旗手として知られ、ユーモアを交えた文明批評的な評価を得ている。また約10mに及ぶ巨大彫刻のパフォーマンスは、日本の「ラ・マシーン」とも呼ばれている。
1994年より活動拠点をドイツ・ベルリンに移し、1996年「トラフィック」(CAPC現代美術館、ボルドー)に参加。1997年より自作の放射線を検知する防護服を着て、原発事故後のチェルノブイリなどを探訪する《アトムスーツ・プロジェクト》を開始(1998年に帰国)。
2002年、イッセイ・ミヤケの店舗のために、着衣室の機能を持つ彫刻作品を制作。同年、磯崎新との二人展「EXPOSE2002」(KPOキリンプラザ大阪、横浜赤レンガ倉庫)に参加。2005年、村上隆キュレーションによる「リトルボーイ」(ジャパン・ソサエティ、ニューヨーク)に参加。2013年、映画監督・北野武と環境汚染をテーマにした寓意的彫刻《アンガー・フロム・ザ・ボトム》を共同制作し、「瀬戸内国際芸術祭」で展示。近年では、東日本大震災後の福島を含めて、地域と共鳴する巨大彫刻を置くことで人々に希望を与える活動を続けている。
Webサイト:http://www.yanobe.com/
——————————————————————

——————————————————————
堀木エリ子(和紙作家)

1962年京都生まれ。 
1987年SHIMUSを設立。2000年に(株)堀木エリ子&アソシエイツを設立。
「建築空間に生きる和紙造形の創造」をテーマに2,700×2,100mmを基本サイズとしたオリジナル和紙を制作。和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手がける。
「成田国際空港第一旅客ターミナル到着ロビー」「在日フランス大使館 大使公邸」等、多数の公共施設や商業空間、ニューヨーク カーネギーホールでの「YO-YO MAチェロコンサート」の舞台美術など多分野で和紙作品を制作。
日本建築美術工芸協会賞、インテリアプランニング国土交通大臣賞、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2003、日本現代藝術奨励賞など多数受賞。
Webサイト:http://www.eriko-horiki.com/
——————————————————————
 
 

posted by Design Stories