PANORAMA STORIES
ベルギーで家庭菜園を始めてみれば。 Posted on 2018/08/05 佐谷戸 美和 料理研究家 ベルギー・ワロン地方
「ジャガイモの花はね、可愛い白い花が咲くんだよ」
子供の頃、母が私にそう教えてくれました。
先日その言葉が青々と茂るジャガイモ畑を前にふと降りて来たのです。
日本にいた頃に、ジャガイモの花を見た覚えは無かった様に記憶しています。
今現在、ジャガイモと小麦と時々トウモロコシと甜菜が広大な畑に青々と茂る土地に住み、最近では貸農園で和野菜と薬味を中心とした家庭菜園を本格的に始めました。
野菜を店で購入し、食べることはあっても、その野菜の花や実っている様、どのくらいの大きさに成長するのか、種はどのような形をしているのか、土壌の違い等、工業地帯で生まれ育った環境もあってか日本にいる時にはあまり考えもしなかった野菜の育て方を頭に詰め込んでおります。
こちらの畑は市との契約上完全な有機栽培で、自然な物で土を作り、刈り取った雑草等はコンポストへ入れまた土に返します。
ミミズだダンゴムシだ、それを求めて野鳥が集まり野ウサギやハリネズミ、キツネも出没、雉もたまに現れたり…勝手にニョキニョキと生い茂るブラックベリーの茨や棘のあるイラクサの群に、ふと、遠い昔に読んでもらった、魔女が出てくる様な欧州が舞台の童話を重ねます。
ある日、畑仲間のベルギー人達がのんびりと農作業中、私の畑の前で足を止め、興味深そうにキラキラした目で口々にこう言うのです。
「ねぇ、このハーブは何? この野菜は? こっちのは?」
人が変わっても毎回質問は同じです……。
無理もありません、水菜も春菊も紫蘇も山葵もこの国では、まず目にすることはありませんものね。
そしてベルギー人らしい質問がこちら。
「どうやって料理するの? 何と組み合わせたら相性が良い?」
私はこんなベルギー人の食への飽くなき貪欲さがたまらなく好きです。
近年簡単に冷凍食品や出来合いの食品で済ませてしまう傾向にある様ですが、疑わしくもあります。あの美食家ベルギー人ですよ?
彼らの多くは頭で妄想料理を始め、脳内で味見までしちゃう。このスパイスを足し、このハーブを足し、あーじゃない、こうだ、そうだと…その時の表情がまた楽しそうで、こちらまでその妄想料理にお呼ばれするのです。
最近も馴染みの畑仲間との世間話で、日本では珍しいハーブの調理の仕方と効能について教えてもらいました。
「ところで、ジャガイモの花って白かったよね?」と訊くと、「白いのもあるけど、確か菫色とか淡い桃色のもあるよ」と……。
え? なんと! 流石ジャガイモの国! フリッツ王国!
お母さん、お母さんの好きな菫色のジャガイモの花もあるみたいです!
また一つ、ベルギー経験値が上がりました。
そして畑のワサビにも蕾が…… 花は可愛い白。
もちろん娘には一番に教えてあげました。
異国で初めて知る日本、きっとこの先もくさん出会えることでしょう。
Posted by 佐谷戸 美和
佐谷戸 美和
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神奈川県出身。横浜のビール専門店のバーテンダーを経て2009年にベルギービールの修行の為渡白。同年ベルギーワロン地方に移住。2012年妊娠をきっかけに日本食を作る為の日本の伝統的な発酵・加工・保存食品を作り始め、現地人向け日本食料理教室や、ケータリング、ブログ『海外で和食』にて、日本食作りに悩む在外邦人への発酵・加工食品作り方のアドバイスをしています。