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“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび Posted on 2018/07/20 町田 陽子 シャンブルドット経営 南仏・プロヴァンス

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

さえぎるものが何もない丘陵地に、風が吹き抜けていく。そよ風と呼べるようなやさしいものではなく、ひゅうひゅうと襲いかかるような風。夏の太陽が容赦なく照りつける。足元は、石がゴロゴロ転がるやせた土。

ずっと先まで、どこまでも続く、誰もいないラベンダー畑。昼間なので作業する人もいないし、旅行者もここまでは足をのばさない。
標高はそろそろ1000メートルを超えるあたり。清涼感のあるさわやかな香りがあたり一面に充満しているが、低地に咲く華やかなハイブリッドのラヴァンダンよりずっと小さく、楚々としている。これが古代や中世の時代から薬用植物として利用されてきた、真正ラベンダー「ラヴァンドゥ」。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

アルプス山脈の西端、オート・プロヴァンス県、ヴォークリューズ県、ドローム県にまたがったエリアでは、7月、この真正ラベンダーが青々と風に揺られている。穏やかで牧歌的なプロヴァンスとはひと味違う印象の、プロヴァンス高地である。

19世紀には、まだプロヴァンスにはいまのようなラベンダー畑はなかったそう。自生している自然のラベンダーを、女性や牧童たちが暇なときに摘んでは、小型の機械で蒸留し、エッセンシャルオイルを作っていたのだとか。本格的に畑で栽培が始まるのは19世紀末ごろからである。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

栽培農家は、乾燥ブーケ用に、花がいちばん美しいタイミングで一部を手で刈り取る。その後、オイルをたっぷり含み始める時期を見計らい、トラクターで刈り取り、蒸留。種類によって、香水用、石鹸やボディソープ用など、用途が決まる。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

ラベンダーは生花や乾燥花をブーケにして飾っておくだけでも素敵だけれど、その活用方法はいろいろある。
虫除け効果があるため、乾かしたあとの花をリネンの袋に入れてサシェを作り、クローゼットに入れ、シーツやタオルなどに挟んでおけば、ラベンダーの香りがうつって爽やかな香りを楽しめる。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

エッセンシャルオイルも活用範囲が広い。私は毎日の家の掃除に欠かさず使っている。バクテリアの繁殖を抑えてくれるので、モップ掃除のお湯の中に数滴垂らし、また、掃除機やゴミ箱の中にもコットンに染み込ませて入れておく。ホワイトビネガー100ml、食器用洗剤大さじ1、ラベンダーのエッセンシャルオイル10滴を混ぜれば、万能掃除用洗剤のできあがり!
虫に刺されたら、肌に直接オイルを塗り込んでおくと痕も残らずスッキリ。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

けれど、なんといっても飾って美しいのは、フュゾーだ。ナヴェットとも呼ばれるが、ラベンダーの生花を折り曲げ、リボンで編み込む伝統工芸品(日本ではラベンダースティックと呼ばれているとか)。中に隠れてはいるが、とても美しい花のオブジェだ。
花の部分でトントンとたたくと、香りがほのかに漂う。プロヴァンスでは、これを婚約や結婚のときに贈るのが昔からの風習である。

不器用な私も作ってみた。
先生はマリックさん。ココ・シャネルの邸宅で開かれたプライベートパーティのプレゼントにもオーダーされるほどの腕前だ。彼女にお願いして、我が家でフュゾーのアトリエを開催。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

もう一人の先生はマルグリットさん。オートプロヴァンスのラベンダー農家のおばあちゃん。最近はピレネーの山に別荘を買って、時折、一人暮らしを満喫しているそう。なぜにまた、と聞くと、「子どもたちも、17人の孫たちも独立したから、私も独立して新しい人生を謳歌してるのさ」との答え。いつまでも魅力的な、年齢不詳の女性だ。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

いろんな作り方があるが、簡単で見栄えがいいのは、マラカス形。
中型なら、ラベンダーを42本くらい使う。束にして、葉を取り、花穂の下でリボン(2m50cmくらい)をきつく結び、根元の茎をていねいに1本1本均等に折り返す。そして、折り返したいちばん上からリボンを2本ごとにきっちり編み込んでいく(小型の場合は1本ごと)。最後に適当なところで茎にリボンを巻きつけて、リボン結びをして終わり。
そして2、3日、太陽の下で乾燥させてできあがり。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

難しそうに見えるが、根気をもって集中すれば、初心者でもそれなりに形になる。使う本数により大きさが異なるが、小さいほうが手先の器用さが問われ、難しい。アンティークリボンを使えば、オブジェとしての価値がアップする。

疲れたときにトントンと叩いて、香りをかいでリラックス。私は窓やアルモワール(タンス)の取っ手にぶら下げている。こうしておくと、開け閉めする際に動いてラベンダーの香りがふと漂い、忙しいときでも思わず手を止め、深呼吸。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

わが相棒のダヴィッドも厳しい先生の教えを受け、いざ挑戦!

休憩タイムには、農家の庭の西洋ボダイジュの下で、昼食のピサラディエールをいただく。時間をかけて炒めた甘いタマネギとアンチョビのパン。目の前には紫の絨毯が広がっている。やせた高地でも豊かに楽しく暮らす人間の叡智。
豪華さは皆無だけれど、プロヴァンスの夏は、生きとし生けるものが太陽の下でそれぞれに輝きを放っていて、美しい。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

プロヴァンス名物のピサラディエール。

 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

愛らしい野生のラベンダー。

 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

カゴ型のバリエーションもかわいい。そのうえ、編み込む部分が少ないのでぶきっちょさんにおすすめだし、日本のように湿度があるところでは花が外に出ているぶん乾燥しやすい。
 

“ラベンダーの聖地”で、伝統の花あそび

 
 

Posted by 町田 陽子

町田 陽子

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Yoko MACHIDA
シャンブルドット(フランス版B&B)ヴィラ・モンローズ Villa Montrose を営みながら執筆を行う。ショップサイトvillamontrose.shopではフランスの古き良きもの、安心・安全な環境にやさしいものを提案・販売している。阪急百貨店の「フランスフェア」のコーディネイトをパートナーのダヴィッドと担当。著書に『ゆでたまごを作れなくても幸せなフランス人』『南フランスの休日プロヴァンスへ』