PANORAMA STORIES
大地のダイヤモンド「トリュフ」と「どんぐり」の深い関係 Posted on 2022/01/07 ムーケ・夕城 トリュフ栽培士 フランス・ドルドーニュ
「どんぐりを植えなさい。されば、トリュフが採れるであろう」
そう公言したのはフランスの19世紀の作家、農学者であるアジェノ-ル・ドゥ・ガスパラン(1810-1871)でした。「トリュフ」と「どんぐり」、いったいどんな関係があるのでしょうか?
トリュフ栽培のはじまりは、貧しい農民のシンデレラストーリー。
プロヴァンスのヴォークルーズ県に住む慎ましやかな生活を送っていた農民のジョゼフ・タローン。庭にどんぐりを植えた数年後、その木の根元に黒いゴツゴツとした何かが……そう、「トリュフ」を発見したのです。この偶然の副産物のおかげで、ジョゼフは多額の富を手にすることになりました。ジョゼフはこの自然の賜物を自分のものだけにしておきたく、どんぐりの秘密をひた隠しにしていましたが__、ある日ポロッと身近な人間にもらしてしまったのが運のつき。庭にどんぐりを植えるものが後を絶たず、トリュフの生産量も増えていきました。
この、きのこ界の革命を聞きつけた卸売り商人のオーギュスト・ルソーも自分の土地にどんぐりの木、樫(カシ)を植えました。そして、トリュフ収穫までの観察や経験を書き記し体系化。これが1800年代前半、トリュフ栽培のはじまりとなりました。
しかし、どんぐりを植えるだけでトリュフが採れるなら、トリュフはジャガイモと同じような扱いを受けていたことでしょう。幾つもの好条件が揃って初めて、トリュフという大地のダイアモンドが誕生するのです。
ジョゼフ・タローンが見つけたような自生で育っているトリュフは、土地、気候、重要なファクターが揃った上で、トリュフ菌が宿木になる樫に自然感染したから。 その昔は自生できる環境が整っていたのですね。地球温暖化の影響を受けたのはトリュフも例外ではないようです。
どんぐりとトリュフの関係は「パートナーシップ」。
トリュフは単体では生きられませんので、宿主となる木が必要です。現在のトリュフ栽培では、宿木となる苗を用意し、その木の根っこへトリュフ菌を菌床。土中には何億という菌が存在していますから滅菌消毒した土を用いることも忘れてはいけません。
菌床したトリュフの苗木は、11月に行われるフランス国立農業研究所(INRA)の検査を受けます。その後はじめて、トリュフ菌が付いているという査証を受けた苗木が一斉に売り出される、という仕組み。
トリュフ菌は好き嫌いがはっきりしていますので、全ての木が宿木になれるかというと、そうではありません。楢、樫、ブナ、ハシバミ、クマシデ、菩提樹などを好み、中国産のトリュフは松の木に共生します。
我が家のトリュフ園では2種の宿木を選択しました。常緑樹であるセイヨウヒイラギガシと落葉樹であるヨーロッパナラを半分ずつ。先駆者のアドバイスを聞きながら、実験の意味でモワティエ、モワティエ(半分半分)に。
宿木の選択理由は人それぞれで、庭師の友人は、自宅のトリュフ園に冬でも美しい緑が見られるようにと美観的理由で常緑樹を選択していました。
植苗してから、運が良ければ6、7年、通常8年から10年の年月を経てトリュフが採取できるようになります(運が悪ければ0)。
「時が経つのなんてあっという間」と、おまじないのようにつぶやきながら100本近くの苗を植えたのが6年前のこと。地中に隠れているトリュフ菌の成長は視認できませんので、ただひたすら待つしかありません。そこに、”ワクワク”や”ロマン”、”パッション”を見つけられるかどうか。
自然は私たちの逸る心なんてお構いなし。損得勘定だけでは始められないのが個人のトリュフ栽培なのです。
私たちは、毎年同じ土地で夏と冬に自生で採れる4キロ程のトリュフに励まされながら、ただひたすらトリュフが育ってくれることを祈るのです。
そして、編集部からのお知らせ。
2022年1月16日の地球カレッジは、ムーケさんが経営するトリュフ農園で、辻仁成が初トリュフ狩りに挑戦することに・・・。
ご興味のある皆さま、オンライン・ツアーにご参加ください。
ムーケ・夕城(トリュフ栽培士)×辻仁成「ブラックダイヤモンド、黒トリュフの魅力」辻仁成がトリュフの聖地ドルドーニュにて、トリュフ狩りに初挑戦
2022年1月16日(日)20:00開演(19:30開場)日本時間・90分を予定のツアーとなります。
【48時間のアーカイブ付き】
※アーカイブ視聴URLは、終了後(翌日を予定)、お申込みの皆様へメールにてお送りします。
この講座に参加されたいみなさまはこちらから、どうぞ
チケットのご購入はこちらから
※ フランス南西部に位置するドルドーニュ地方の山奥に位置するトリュフ園からトリュフの魅力を御覧頂く予定の生配信を準備しておりますが、天候など様々な理由で一部変更になる可能性もあります。山奥にある、広大なトリュフ園からですので、電波が乱れる可能性もございます。最大限の状況を模索しながら、当日、トリュフ犬と栽培士さんらと力を合わせ、挑む形になります。嵐にならない限りは決行いたします。
Posted by ムーケ・夕城
ムーケ・夕城
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トリュフ栽培士
トリュフ園所有。トリュフ栽培協会会員。Best of Perigord主催。土やガラスを使った創作活動も行う。パートナーはフランス人ミュージシャン、ディープ・フォーレストのエリック・ムーケ。自宅スタジオにやってくる音楽関係者のレセプションも担当。2児の母。