PANORAMA STORIES
将来の夢と勉強と。14歳の混沌をそっと包みこむ、母国のメロディー Posted on 2018/02/20 荒井 瞳実 母 オランダ・デンハーグ
この冬の最も大きな出来事のひとつは、長男が私たち夫婦の身長を越したことだ。
並んだと思ったのも束の間、あっという間に抜かされてしまうのだから、14歳の成長する力というのは目を見張るものがある。とはいっても、オランダ人は世界一背の高い国民として知られていて、子供服は175cmくらいまでのサイズを購入することができるので、我が息子はまだまだ子ども!!
オランダで暮らすようになり1年半が過ぎた我が家。長男は現在、オランダ語習得を中心とした移民向けクラスを終え、ブリッジクラスと呼ばれる移行クラスに通っている。通常の教科をオランダ語で履修するプログラムで、オランダ語、英語はもちろんのこと、ドイツ語やフランス語のレッスンもある。クラスが進めば進路によってはギリシャ語やラテン語も学ぶというのだから、オランダの多言語教育恐るべし。
オランダでは、小学校から中学校にあがる段階で、将来の進路を見据えた学校に進学する。
子どもの適正と希望に応じ、大学進学を目指すのか、職業訓練的な進路に進むのかなど、将来の夢に沿った進路を選ばなくてはならない。大学の進学率は10%前後で、大学に進学しなくても教員を含む大抵の職業に就くことはできるようだ。
長男は移行クラスをあと半年で終え、進路に沿ったクラスに転入することになる。
将来の夢が定まらず焦る思いや、随時更新される成績に、一喜一憂する日々。親としては、まだ焦らなくてよいじゃない! と思う気持ちもあるのだけれど、それがオランダのシステムなのだから、背後から頑張れと声をかけることしかできない。
そんな彼の最近の趣味は、習い始めた野球と、歌を歌うこと。トイレからも深夜の部屋からも、彼の歌が聞こえてくる。機嫌のよい日と悪い日を波のように繰り返す敏感な青年が歌う日本のポップミュージックは、私の心を落ち着かせる。
「あぁ、今日は機嫌がよいのだな」と。
母語で心を許し語り合える友の存在が身近にいない海外生活の中で、日本語の歌は、間違いなく彼の支えになっている。
ちなみに、オランダの若者たちの間でも ”KARAOKE” は流行しているようで、スマートフォンで採点付きのカラオケを楽しんでいる。
アニメや映画の影響で、日本語の歌が歌えるクラスメイトもいるので、日本のポップミュージックで対決! ということもあるらしい。
思春期は、大人と同等に扱って欲しいと立派に主張するものの、まだまだ甘えたくて子どもっぽい部分が多く残る時期。勉強のこと、将来の悩み、移民であるが故の言語や文化のストレス。ちょっとのことで心は大きく揺れ動き、傷つき悩むその姿は、まさにガラスの心の持ち主といったところ。
自分自身の思春期に思いを馳せると、まさに混沌とした時期だった。たくさん勉強をして、友達といっぱい長電話をして、自分の将来に悩んで、無限に時間があるように感じたあの頃。90年代に聴いていた曲を引っ張り出して聞いてみると、あの頃の青く生々しい空気が蘇ってくるようだ。
そして、現在は遠く離れた日本に住む母に、ずいぶん反抗して辛くあたったなぁ、苦しかっただろうなぁと、感謝の気持ちが改めて沸いてくる。
親元を巣立つとき、子どもたちが暮らす国は「日本かオランダ」という二択ではないだろう。多感な思春期にオランダという場所で過ごし、悩んだことは、大きな力になるはずだ。
心も体も頭も、ひとつひとつ成長の階段を上がって、彼らしく生きていったらいいな。世界中で出会った気の合う友達と唇に歌を大切に。
Posted by 荒井 瞳実
荒井 瞳実
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神奈川生まれ。2012年からバリ島、台北と旅するように暮らし、2016年オランダに着地。hitomiarai.infoという小さなオウンドメディアで、子育て、アロマセラピー、海外生活などを発信。植物やその土地の恵みを、暮らしの中や子育てに活かせたらと、常にナチュラルライフを模索中。現在は男児3人と夫のケアを基盤に、講座、講演、執筆活動などを。趣味は素敵な人とのお茶飲み。