PANORAMA STORIES
ヴェネツィアのクリスマス Posted on 2017/12/17 吉田 マキ 通訳・コーディネーター ヴェネツィア
ヴェネツィアの街は、クリスマスの色と光に彩られている。
12月に入ると、サンマルコ小広場に円錐型の高さ12メートルのツリーが設置された。
年明けの1月6日のエピファニア(公現祭)の日まで、イルミネーションが街を飾り、教会での合唱コンサートや、フェニーチェ劇場の出張演奏会などたくさんのイベントが催される。
どっしりとした建物がまるで水に浮かぶような、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ教会前のスペースにもツリーの光が一隅を照らしている。
バロック建築の傑作であるこのサルーテは、ヴェネツィア市民から最も愛されている教会の一つで、主祭壇にはMadonna Nera(黒い聖母)の聖母子像が掲げられている。これは、クレタ島の北部がヴェネツィア領であった17世紀に、現地から持ち込まれたビザンチン美術のイコンらしい。
そのサルーテ教会内部に、先日100㎡のインフィオラータが披露された。
インフィオラータとは、元々イタリアのカトリック教会で始まった、花びらで埋め尽くされたカーペット状の装飾のこと。
サルーテ教会のインフィオラータは、シンボルである黒い肌の聖母がデザインされている。
サン・ポーロ広場には毎年この時期になると、仮設のスケートリンクが作られ、地元の子供たちでにぎわう。
サント・ステファノ広場のクリスマスマーケットでは、地元の人間に観光客が混じり合って、散歩がてら試食をしたりプレゼントの品定めをするのも恒例だ。
12月になると、どこの店もプレゼントを早めに買っておこうとする人で混み始める。
実際、日が迫るほど焦りは増す。子供や家族だけでなく、この時期に顔を合わせる親戚や友人、知人にもプレゼントを渡すからだ。
そんな、この時期特有の気ぜわしい人々を、私は他人事のように眺めている。
夫の両親が健在だった頃は、それでも人並みにしていたが、最近はすっかりシンプルになった。元来そういうことを億劫に思う質なので、ありがたい。
移住した当初は、年末に大掃除をしないと新年を迎えられないような気がしたものだが、プレッシャーをかけてくれる洗剤のコマーシャルもなく、いつのまにか止めてしまった。
そんなわけで、我が家ではクリスマスムードだけ便乗して、もっぱら美味しいワインやそれに合う食べ物を作ったり味わったりがメインの、聖なる夜から新年の過ごし方。
クリスマスや年末年始のごちそうは、ヴェネツィアではやはり魚介類が多く使われる。それでこの時期は、リアルトの魚市場が混み合うのだが、それを見て少し安堵する。
1000年前からあるこの魚市場だが、ここ数年の平日は、地元の買い物客よりカメラを持った観光客の方が多いくらいなのだ。ヴェネツィア人が魚を食べなくなっているという。
ここに暮らし始めた15年前は、毎日朝から人であふれ、陳列台の魚を見るのも一苦労だった。番号札もなくて、私一人だと順番を抜かされてばかりで、よく夫に付いてきてもらっていた。相変わらずボンヤリの私でも、最近では余裕で買えるのを残念に思う。
「クリスマスは家族と、新年は友達や恋人と」の習慣を、ヴェネツィアの若者も律儀に守る。そこはさすがに、カトリック大国だ。
大晦日はサンマルコ広場での花火で、新年を迎える。
2018年が皆さまにとって、素晴らしい一年でありますように!
Posted by 吉田 マキ
吉田 マキ
▷記事一覧Maki Yoshida
神戸出身。90年にイタリア、ペルージア外国人大学留学。彫刻家および弦楽器創作アーティストのイタリア人との再婚により、娘を連れて2003年よりヴェネツィア在住。夫の工房助手の他、通訳、コーディネーター、ガイドなど。