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フランスで人気ナンバーワン、「コンテ」チーズの神秘! Posted on 2017/11/21 久田 早苗 チーズ熟成士 パリ
フランス東部、スイス国境に位置するフランシュ・コンテ地方へ行ってまいりました。冬は辺り一面が雪で覆われ厳寒の土地ですが、晩秋のこの地方は暖かい陽射しが落葉樹を黄金色や真っ赤に染め上げ実に美しい景観です。
この土地にはAOCのチーズがいくつか存在しますが、中でも今回ご紹介する代表的なCOMTEチーズは、生産量も消費量もフランス第1位!
35kgから45kgの大型チーズで、加熱圧搾(かたい)タイプ。その年の天候、草の状態、作り手、その後の熟成者や熟成の長さの違いで、様々な味の違いが生じる、実に選びがいのあるチーズなのです。
最低熟成期間は4ヶ月。特色はナッツの様な風味とホクホクとした栗の食感で、熟成が1年未満のものは穏やかな味でしばしば料理にも使われています。1年を経過する頃からはアミノ酸が生成され、ジャリジャリとした食感があり、花のようなアロマが味わえます。
最近は、2年熟成を経過した濃厚な味が流行っていますが、私がパリで店を開けた15年前には、むしろ7、8ヶ月の優しい味がコンテの代表でした。
コンテの製造用の銅鍋
実は、今のような濃厚でデザートのような深みのある長期熟成コンテの流行りに火をつけたのは、アミノ酸の ”うま味” を理解できる日本人なのです。パリの人々にも徐々にその流行りが広がっていきました。
これは生産者にとっては大問題でした。流通の早い1年未満で十分売れていたのに長期熟成を作り出さなければなりません。場所も、人手もさらに必要です。
見合った価格設定をしたところで、チーズにはそれぞれのピークがあり、美味しさの頂点を引き伸ばせるものではありません。希少なチーズはパリで流行り始める頃には数量足らずという状態に。そのため、完璧にバランスのとれた長期熟成のコンテはなかなか手に入らなくなってしまいました。
私たちのような買い手は、地元のカーヴまで行って、年間の必要消費量を満たすコンテを試食しながら選びます。
熟成が12ヶ月を経過した製品を選び、更なる熟成を熟成士の技に託してきます。「選んだ全ての玉が同じ様にいい味を生成してくれますように」と祈りながら。
その大半は私が求める味に仕上がった頃(2年くらい)を見計い、熟成士から引き取って売り場に展開します。
コンテチーズ
やや組織が締まって、仄かな花の香り、バターの濃厚さやミルクに蜂蜜の甘さを加えたような味わい。アミノ酸の結晶がうま味となって口に広がるジャリジャリ感…。
熟成のスタートは同じでも、時折、目玉商品になるくらいの完璧な美味しさに育ったチーズに巡り合えます。そんな時、私は人の手ではどうすることも出来ない「熟成」の神秘を感じます。チーズは自然界からの贈り物なのです。
コンテの年間生産量は6万トンと言われます40kgのコンテで考えると150万個に当たります。気が遠くなりますね。
この中で貴方のお好みの味に出会えるのは奇跡でしょうか?
是非、出会って下さることを祈っています。
コンテのカーヴにて
☆ グルメの提案 ☆
ワインの相性は同郷のジュラワインがお奨めです。全てのチーズによく合う、アルボアの白、シャルドネ、ヴァンジョーヌ。赤のプルサールやトゥルソーの熟成したものは、長期熟成のコンテにもよく合います。個性的なマリアージュにはサバニアンもお奨め。
肌寒い季節に突入したら是非、コンテの熟成違いを用意してフォンデュで召し上がってくださいね。
ジュラ地方のワイン
Posted by 久田 早苗
久田 早苗
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チーズ熟成士 株式会社 久田 取締役 副社長。1985年、東京立川市にチーズ専門小売店「チーズ王国」1号店を開店。2004年にはパリ16区に「Fromagerie HISADA」、2010年にはパリ1区に熟成チーズの販売とチーズカフェを併設したSalon du Fromage HISADAをオープンする。2008年、日本人で初めてのチーズ熟成士最高位の称号「Maitre Fromager」を受勲。2013年にはフランス共和国農事功労賞シュヴァリエ勲位、2015 年にはフランス共和国農事功労賞オフィシエ勲位を綬章。