PANORAMA STORIES
DESIGN STORIES × ISETAN ~世界で挑戦する日本人の物語~ 「フィレンツェの職人」 Posted on 2017/10/15 Design Stories
Cisei 大平智生
自分の仕事やステータス、人生などを人に紹介するとき、ふと、僕は何者なのだろうか、と考える。
イタリアに渡ったのは、22歳、95年の春。その2年前には、すでに海外に出る事を考え始めていた。
理由はいろいろあるが、一番大きな理由はバブル経済崩壊による就職難だった。
当時、僕が通っていたのは高専、専攻は工業デザイン。大手メーカーや有名デザイン事務所などへの就職率も高く、自分の中にも常に根拠のない自信があり、将来への不安など全く感じていなかった。
しかし、バブルが崩壊。その直後が卒業年だったため、就職の募集は激減、その上、卒業を逃してしまった。卒業年をやり直すも、景気は戻らず、「とにかく時間が欲しい」という気持ちになる。そして、海外逃亡を思いついた。
大義名分をつければ、それなりに将来が見える選択であると信じ、資金作りから始めた。遊びに使っていたバイト代を貯金に回し、卒業後「1年」というリミットを決め、昼夜働きお金を貯めた。
卒業研究が公園設計だった事や、昼間の仕事が建築系であった事もあり、当初の留学目的は「庭園、都市設計などを目指すランドスケープデザインを学ぶこと」だった。それが学べる学校をイタリア、フィレンツェに見つけ、目的地と決めた。
欧米の学校は9月から新学年が始まる。4月にイタリアに渡れば、事前に必要な語学力が習得できると考え、余裕を持って出発することにした。が、その結果、半年間も自由な時間ができてしまったため、進路変更をすることになる。
それから10年間、4件のメーカーを渡り歩き、鞄に関しての様々な仕事を学んだ。だけど、雇われ職人の生活は厳しく、昼はメーカー勤務、夜は個人的に地元メーカー等から仕事を貰い、自宅でパターンやサンプルの仕事をこなし生活していた。
その頃から、少しずつ自分で何かを始めることを考えるようになっていたが、資金も勇気もない。子供が生まれたばかりでもあった。
しかし、時にチャンスは向こうからやってくる。
イタリアから日本に様々なアパレルブランドを輸入、販売している会社に勤める友人が、僕の作品を見て「日本で売ってみたい」と言い出したのだ。友人の務める会社は、すでに錚々なブランドの代理店業務をこなし、大手を含む多くの顧客を有していた。
願っても無いタイミング。僕はそのチャンスにしがみついた。
個人的に受けていた仕事を断れば、時間はある。売れなければその後苦しくなるが、きっかけは必要。次があるかどうか分からない。
コンクールにでも応募するつもりで自分のブランドを作る決心をした。
与えられた仕事をこなす生活の中で、いつの間にか自分の中に大きなフラストレーションが溜まっていたようだ。多くのメーカー、ブランドがコストを優先にモノ作りをする横で、僕は自分の作品に学んだ技術、知識、フィロゾフィーをふんだんに織り込んだ。
自分らしい表現を許された時、その力は良い方向に働いたのだと思う。
とても恵まれた環境の中で、「Cisei」は産声をあげた。
それから、春夏、秋冬と年に2回のシーズンを繰り返し、さらに10年。「Cisei」は2006年からの10年間、メンズバッグに力を注ぎ、2017年、愛する女性たちのために、ウィメンズの展開をはじめた。
その先はまだわからない。
僕はいったい何者なのだろう。
職人であり、デザイナー。ランナーであり、経営者。夫であり、父親、そして、友人。どれか一つの肩書きでは言い表せない。
「Cisei」のバッグもまた、さまざまな顔を持っている。
CISEIは以下のイベントに参加します。
DESIGN STORIES × ISETAN ~世界で挑戦する日本人の物語~
■2017年 11/1(水)~ 11/7(火)
■10:30-20:00
■伊勢丹新宿店本館4階=センターパーク ステージ#4
■お問い合わせ:伊勢丹新宿店 ☎03-3352-1111(大代表) コンテンポラリースタイル2
【詳細に関して】ISETAN SHINJUKUニュースにて10月25日(水)よりご案内予定。
>>> http://isetanparknet.com/news_event/sort/park4f/
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