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フランスで出産「産院を決めるまで」 Posted on 2017/09/26 尾崎 景都 日本語教師 パリ

数週間前から気になっていた、身体の変化。薬局で買った妊娠検査薬で確認すると、結果は陽性だった。計画していたわけではなかったので、この時は喜びよりも驚きが先だった。妊娠を告げると、夫は大層喜んだ。
翌週、婦人科で診察を受けると、妊娠7週目に入ったところだった。エコー画面の中の我が子はまだきちんとした形は成していなかったが、一定のリズムで動く心臓の鼓動に、確かな生命の萌芽を感じた。
 

フランスで出産「産院を決めるまで」

フランスでは、1994年に戦後最低ラインまで落ち込んだあとは、出生率は徐々に回復傾向にある。その背景には、出生率の低下を重く見た政府の、出産、育児に対する政策の見直しがあった。
手厚い保障と、働く女性への理解。社会全体が、出産、育児を支援してくれている。
それもあり、私たち夫婦、特に夫は、フランスで子供を産み育てることに対して以前から積極的だった。
 

フランスで出産「産院を決めるまで」

妊娠確定となると、まずすることは、出産する病院決めだ。
フランスでは、公立の病院や大きな総合病院以外、医師は大抵アパルトマンの一室で開業している。皮膚科にしろ、耳鼻科にしろ、普通の住居者と同じ建物内に看板を掲げ、部屋の中に設備を置いて診察している。そのため、婦人科と産科は別々になっていることが多い。婦人科では診察だけをして、血液検査はラボへ、出産は入院できる病室が整っている産科へ、という形を取る。
妊娠中に3回行われる正規のエコー検査を、専門の施設へ任せている婦人科も少なくない。検査の度にあちこち移動する面倒さや、一人の医師に全てを診てもらえないという不安はあるが、分業がきっちりできており、各施設同士の連携がしっかりしているという利点もある。
 

フランスで出産「産院を決めるまで」

フランスで出産「産院を決めるまで」

私は最初、この病院決めで遅れを取ってしまった。自宅から通える範囲の公立病院は、どこも既にいっぱいだった。公立病院だとあらゆる設備が整っているので、一か所で全ての検査ができるし、何より社会保障で支払いのほとんどがまかなえるというメリットがある。そのため、競争率が高いのだ。その後、私は私立だが評判の良い産科に決めることができたので結果的に満足しているが、病院決めは早いに越したことはない、と痛感した。

妊娠と聞くとお祝いムードになるが、現実はこうした手続きの連続。
ある晩、夫が「名前どうする? フランス人にも発音し易い方がいいよね」と、嬉しそうに漢字だらけのメモ書きを私へ押し付けてきた。
なんというお気楽な我が夫。だが、不安や困難を乗り越えられるのは、家族が増えるというこの上ない幸せがあってのことなのだ。
日本人夫婦が、フランスで出産、子育て、前途多難。支え合って頑張ろう、とお互いを励まし、私たちの新たな生活が始まった。
 

フランスで出産「産院を決めるまで」

 
 

Posted by 尾崎 景都

尾崎 景都

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Keito Ozaki
パリ第7大学 言語音声学科 修士課程修了後、日本語教師として活動中。夫は料理人。