PANORAMA STORIES
トンガ王国の幸福な秘密 Posted on 2017/09/09 岡田 裕介 写真家 トンガ王国・日本
僕は今、トンガ王国でザトウクジラの撮影をして過ごしている。
トンガというとアフリカのどこかの国? と聞かれることが多いが、実際はニュージーランドの北東に位置し、4つの諸島と170あまりの島々で構成されている。対馬とほぼ同じ面積を持つ人口10万人ほどの島国である。
そして僕が滞在するのが、首都から北へ約500km飛行機で約1時間ほどのヴァヴァウ島という離島。
南半球の冬にあたる今の時期、この島の沿岸に南極から越冬の為にザトウクジラがやって来る。
トンガの離島、ヴァヴァウ島とはどれほどの僻地であろう、と思っていた。
ところが実際来てみると、ザトウクジラ目当ての旅行者や、世界各地からやってくるヨットマンの寄港地にもなっていて、思いのほか賑わっている。
海に撮影に出ている時以外はのんびり過ごしている。
国民の多くが敬虔なキリスト教徒であるトンガ王国。この国の法律では日曜日は働いてはいけない。日曜日に歩いているのは正装をして教会へ行く人たちぐらいで、島中が実にゆったりしたモードに包まれている。もちろん、レストランなども休みだ。
トンガの人々は家族や友人などと豚の丸焼き、BBQをして過ごしている。
当然、僕も撮影はしない。そんな日は仲良しのトンガ人スキッパーなどの集まりに混ぜてもらうことになる。実に楽しいひと時だ。
豚の丸焼きは想像以上に焼き上がりに時間がかかるので、みんなで火を囲みながら、まずお腹から取り出した内蔵系のお肉をつまみに地元のココナッツラムをジュースで割ったカクテルを飲む。
トンガの人々と穏やかに語らいながら過ごす、その贅沢な時間が最高である。
そして、トンガといえば、何と言ってもラグビー。
日本との関わりも深く、親戚や友達が日本のチームでプレーしているという人が意外に多くてびっくり。
日本のトップリーグのユニフォームを着ている人もいれば、自家用車に日本のチームのステッカーを貼っていたりする。
僕は学生時代をラグビーと共に過ごした。だからか、日本のユニフォームを着てグランドや空き地でラグビーをやっている人の姿を見かけると猛烈に親近感を覚える。
初対面の人とも、ラグビーという共通の話題があれば、すぐに打ち解けることができる。ラグビー日本代表にはトンガ人が何人もいる。だから、2年前のW杯で日本が南アフリカに勝った日にはまるでトンガが優勝をしたみたいに国中で盛り上がった。行く先々でお祝いされたものだ。
ガリバー旅行記の巨人の島のモデルになったと言われているトンガ。大柄な体と陽気で穏やかな人柄を持つ人が多く、毎日を実にゆったりと大切に生きていて、そんな彼らを時に羨ましく思う。
決して物質的に豊かとは言えないが、彼らの笑顔の溢れる日常や家族や友人との深い絆に、「幸せとは何か」という本質的なことを改めて考えさせられている。
夕暮れ時、撮影が終わり町を歩いていると、綺麗な夕日を浴びながら子供もおじさんも年齢に関係なく、ラグビーを楽しむ人々の姿をよく見かける。心がスゥーと浄化されて行く尊い瞬間でもある。
ヴァヴァウ島で暮らして5年、これから先の人生もこの地でザトウクジラとこの島の人々と共に過ごしていきたいと思っている。しかし、刻々と変わりゆくこの地球環境の中でクジラが毎年この地にやって来る保証はどこにもない。
だから、僕は願わずにはいられない。
大好きな人々が暮らすこの島に、これから先もずっと変わらず大好きなクジラ達が来てくれますように、と。
Posted by 岡田 裕介
岡田 裕介
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自然と音楽を愛するフォトグラファー。
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