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ロックダウンシティ緊急対話「ニューヨークとパリを結ぶ、千住博×辻仁成」 Posted on 2020/04/28 辻 仁成 作家 パリ

全世界の新型コロナ感染者数が300万人を超えた今日、フランス時間、4月27日17時、ニューヨーク時間、同日10時、ぼくはニューヨーク在住の日本画家千住博氏と回線越しに緊急のインタビューを試みた。封鎖された二つの都市を結んで、今この世界で何が起きているのか、この時代をいったいぼくらはどうやって生き抜き、この時代に何を表現していくべきか。戦時中のような今を凝視し、そして戦後のような未来の在り方を先見するDesign Stories ザ・インタビュー、ニューヨークとパリを結んで、「千住博×辻仁成」。4月28日に緊急配信!
 

ロックダウンシティ緊急対話「ニューヨークとパリを結ぶ、千住博×辻仁成」



「緊迫した今、ニューヨークの現状、パリの現実」

 全世界の新型コロナ感染者数が300万人を突破しましたね。ぼくらは二人ともロックダウンされ封鎖された都市、ニューヨークとパリにいるのだけれど、新型コロナによって分断され、引き裂かれた、まさにこういう状況だからこそ、今、ぼくは千住さんとこの距離を超えて、対話する必要があると思いました。挨拶もそこそこ、始めさせて貰いますが、ニューヨークは現在、どういう状況? そして、お元気ですか?

千住 博さん(以下、敬称略「千住」) 僕が住んでいるところっていうのは、ニューヨーク州で一番初めに感染爆発があった場所で、周囲は本当に緊張感のある感じなんだよね。大変は大変だけれど、僕や妻は助け合って、元気にやってます。

 アメリカは、あれよあれよという間に、ほんとうに、驚く早さで、感染者数が百万人に近づき、5万5千人ほどの方が亡くなられて…。3月13日は死者0だったのに。

千住 もう本当になんでこんなことになったのか? と思いますよ。ここにいて痛切に思うのは、今はロックダウンされていて、罰金がある州もあるし無闇に出歩いたりできないじゃない。だから、テレビやネットからしかマンハッタンの現状がわからない。それが現実なんですよね。

 まさに、ぼくらは情報でしか見渡せない孤島にいるようなものだ。

千住 そう、デジタルの中に情報が集約されてしまったということなんだ。情報が集まるところが都市なるものの本当の姿なんだけど、情報はもはや実際の街の中には存在しないというか。街は抜け殻で、デジタルの中に都市が新たに形成されているという感じなのかな。

 ぼくらは封鎖された日常の中に、制限された現実の世界でこうやってなんとか仮の日常を生きてはいるんだけど、本当に周りで何が起こっているのか、外からの情報ではじめてわかることもある。

千住 僕も辻さんも、ロックダウンの中で、自分の目で得る情報って自宅とスーパーの間だけでしょう? それ以外に起こっている事は友人から伝えられたり、ネットやテレビを通して伝えられる情報からしか得られないんだよね。

 そうなんだよ。結局、世界中の人が、デマも真実もフェイクニュースもごっちゃになって、校閲も校正もない言葉の垂れ流しを、一方的に信じていたりするような状況になってる。

千住 全くそう。これは恐れていた近未来の、ウルトラ管理社会の予告みたいなことかも知れないよね。

 ロックダウンが解除され、いや、この世界がコロナを受け入れた後の、ある程度の収束が見えてきた時に、どんな風にこの世界が変わってしまっているのかっていうことが、ただ、心配でならない。

千住 特にマンハッタンなんかそうだけど、都市化ってまさに密集とか、密接とか、そういうものだったわけで。以前と同じようなマンハッタンの再生はこれからあり得ないんじゃないかと感じている。

 全く同感。これまでの世界のパワーバランスなんかも、変わっちゃうかもしれない。

千住 百貨店は倒産、レストランも解雇なんてどんどん言われていて、変わるのは一瞬だな、とつくづく感じている。消える時はあっという間だな、と思ったね。それが今のマンハッタンですよ。

 ぼくは2月くらいからDesign Stories紙面でアメリカが危ないと言い続けてきたわけです。コロナがアメリカで広がったらマンハッタンが一番危ないって。ところが、現実は想像していた危なさ以上のことが起こってしまった。感染の上昇率の高さと早さが信じられない。

千住 医療関係の昔からの友人も多いのだけど、医療関係者のご無事を祈るばかりです。患者さんも早く快復してほしいと思う。

 こちらも医療従事者の皆さんへの感謝で国が一つに連帯している状態です。ぼくも20時の医療従事者の皆さんへの感謝の拍手は必ず参加している。しかし、その医療従事者への拍手も、波がある。人々が前向きな時とそうじゃない時があって、ロックダウン6週目になってちょっと住民のストレスが溜まってきているのをじわじわ感じますよ。フランスは5月11日に一応ロックダウンが解除される予定ですが。

千住 マンハッタンの解除はフランスよりもっと後になるね。毎日これだけ亡くなる方がいるという現実を見ないわけにはいかない。クオモ州知事は経済より人命優先という考え方だからね、トランプ大統領は経済を優先させたいみたいだけど・・・。

 トランプ大統領は消毒液を体内に注射すれば治るとか、ヒドロキシクロロキンのこととか、結構いろいろな発言で国民を混乱させてるよね。

千住 そうですね。応援する気持ちがあるんだろうけれど、ちょっと言葉をもう少し慎重に選んだ方がいいのかも知れないね。

 ずいぶん優しい言い方しますね(笑)。ところで、ニューヨークはまだピークじゃないんですか?

千住 ピークは一応迎えていて、そろそろ下降線になっていくかな、というところ。毎日クオモ州知事からのメッセージが領事館を通じて入って来るんですよ。ピークは過ぎたけど、ただ、今安心するとまたいつ感染が爆発するかわからないから、このままロックダウンを続けてほしいという要請が日ごとに入ってますね。

 フランスも集中治療室にいる患者さんの数が横ばいから下降に転じていて、ロックダウンの成果が出てきている。上がったり下がったりだけれども、死者数も徐々に減りつつある。5月11日のロックダウン解除へ次第に向かってるところだけど、それでは、ニューヨークはまだロックダウン解除の話は出ていないんですね。

千住 今後の状況見て、新しい判断を上書きしていくというのがクオモさんの発信しているところ。気を抜いたらまたいつどこで感染が膨れ上がるかわからないから。まあ、もう、とにかく、「去年までの時代とは全く違う時代を僕らは生きている」と、否応にも感じますね。

 ニューヨークは医療崩壊しているのですか?

千住 医療崩壊は一時危ないと言われたけれど、ギリギリで保ったんです。それはやはり、ロックダウンの効果だと。ロックダウンって、本当にロックダウンだからね。外出自粛と言うレベルではないから、やはりそれでなんとか保った。クオモ州知事はニューヨーク市民の努力を称えたいと毎日メッセージで伝えているよ。

 フランスもぎりぎり乗り越えつつある、という状況です。ただ、この手の感染症ってウイルスがいきなりゼロになるわけじゃないじゃないからね。
 



「ニューノーマルという、人類の新しい日常を見据えて創作と向き合う」

千住 これは新しい時代というのかな。アメリカでは「ニューノーマル」って言ってるんだけど、つまり、我々は新しい日常を迎えた、と。もはや、これからの時代はそういうことを前提に生きていかなければならない。

 ニューノーマルか、なるほど。ぼくも、価値観が一変したと思い続けてきたけど、「ニューノーマル」という言葉は今、腑に落ちました。新しい日常を生きなければならないという状況に立った、いや、立ってしまった、ということだね。

千住 今までの時代というのは終わったと思うね。これからは新しい時代にみんなが早く慣れていかないと。過去に未練を持っていてはだめ。歴史の転換点にいるということへの自覚が大切だと思うんだよね。

 今までの方程式は当てはまらなくなる。ビジネスなんか特に。過去の成功例、王道みたいなパターンを追うだけじゃ、次の時代に生き残れなくなる。まだ気が付いていないところで、急激な変化が起こっていることを早く認識しなければならないですね。

千住 新しい時代を作っていかなければならない。世界構造が変化してしまっているので、物理的に戻れないよね。例えば物凄い数の失業者とか、倒産とかを考えた時に。

 日本は勤勉な国民性に加えマスクをするという慣習がもともとあったことが影響しているのか、今のところ欧米に比べ感染者数も死者数もまだ少ないけれど、日本だけが無傷でこのグローバル化した経済の中で生き残っていく事はなかなか難しい。世界各国は同じ海の中に浮かぶ船なので、波や風をうける。自動車産業だって航空産業だって、全部が横につながっている時代だから。

千住 日本が収束したかのように見えたとしても、世界のどこかではコロナが蔓延しているいう時代だと思うから。旅行とか、飛行機、貿易とか、これからかなり長く難しい状況にいることになると思うんだよね。日本だけ大丈夫というのは基本的にはあり得ないから。

 心の備えが必要ですね。そう言う時代に、千住さんは画家で、ぼくは作家で、ミュージシャンで。もちろん、まだそんな余裕さえないかも知れないけれど、どういうことを考えて表現していくつもりですか? 何か創作方法に変化ありましたか?

千住 ロックダウンという状況で、今は作品をオンラインの中だけで発表しなければならない。それが精一杯の状況だよね。ネットで辻さんの音楽を聞いたり、新聞記事を読んだりするんだけど、同時に汗が飛んでくるようなライブのコンサートだったり、実物を間近で見ることが多くの情報を与えてくれていた。そう言うことのありがたさに改めて気づくと言うか。それと同時に人はデジタルだけでは生きていけない。フィジカルというものが無くなって、その貴重さがわかる。デジタルというのは音や図像は伝えられるけど、それ以外は何も伝えられないメディアなんだよね。匂いとか、温度とか湿度とか、質感、空間、何も伝わらない。健康とか平和のように、そういうものを失って初めて、その価値がわかる。辻さんもずっと言ってるけど、この状態は長く続くと思うんだよね。少なくとも一年とか。その間に僕たちの環境は更に激変していくだろうと思う。それに閉めたものを開けるというのはかなり難しいですよ。簡単に解決する話ではない。その中で、世の中どんどん生活が厳しくなっていって、生きるために必要なものしか買わなくなって。でも、その時にもアートというのは切り捨てられないとても大切なことなんだって思う。それを世界のリーダーたちはちゃんと感じているんだよね。

 そうですね。ドイツなんて特にすごいですよね。ドイツはアーティストを金銭的にも支援している。知り合いで実際にお金が政府から振り込まれた人がいる。

千住 まさに、ドイツの話を聞いて、素晴らしいリーダーがいるなと思った。結局、夢を持つことの大切さだと思うんだよね。アートというのはヒューマンなもの。人と人が支え合うこと。アルゴリズムでは作り出せない想定外を発想できる人の素晴らしさって本当にヒューマンな本質なんじゃないかと思う。

 この間の朝日新聞に書いたことだけど、この新型コロナって、感染力の強さや致死率の高さだけが怖いんじゃなく、このウイルスが持つ、人と人を引き離す、分断させ、愛を奪う悪魔の毒性が最も恐ろしいんだよね。そもそも人間って漢字、人の間と書くよね。人が人を支えて、思いやって、いたわりあってこそ、人間なんだけど、このウイルスのせいで、人が近づけないので、愛が邪魔され、人間力が奪われていくんですよ。これがもっとも恐ろしいこのウイルスの毒性なんだ。

千住 そうだね。でも、注意深く考えなければいけないのは、辻さんと僕はこうやってコミュニケーションできているし、いろんな形で今もこのコミュニケーションを見てる人や読んでいる人がいるわけです。コミュニケーションは分断されてないんだよ。分断されたのは接触。クローズ・コンタクトなものに対してかなり厳しくなったけれど、本当のコミュニケーションってなんだろうって、辻さんはずっと発表し続けて、その可能性をずっと僕たちに見せてくれている。コミュニケーションは健全に機能している、そう思う。この時代、改めて、意味のある本当の内容性というものが浮き彫りになるというか。今の時代のこういうコミュニケーション、音楽を演奏して届けたり、そういうことってすごく人間的なものをを感じる。本質の一番重要な部分が見えてる。

 確かに。このウェブサイトなんて、そのために作ったプラットホームだから。では、画家としての千住さんは今、こういう状況下で、どう創作と向き合っていく?

千住 要するに、僕は画家だからアトリエでずっと制作をしているのだけど、ただ、こういう状況なので制作助手は誰も来れない。僕というよりも、周りのことを話すと、場合によっては全く手を下さないで、アトリエをファクトリーにして、何十人、何百人という制作助手を使いながら、巨大な制作を指揮監督している現代アーティストって結構いるのね。でもそれってもう暫くは成立しない時代だよ。助手がアトリエに出て来れないから。こういう時代だと、作品の大きさもスタイルも、技法も、いろんなことが変わってくると思うんだよ。僕の場合はどうしているかというと、今も昔も描く部分は一人でコツコツやっているという基本的な姿勢というのがあるわけね。今は更に学生時代に戻ったような感じ。何から何まで一人でやる。掃除から後片付けまで。周辺の画家たちを見てみても、ロックダウンのマンハッタンから出て郊外で風景を描いていたり。そういう状況を見ていると、マンハッタンから出て、地方に移ってる人って結構いるんじゃないかと思う。

 昨日のニュースでね、フランス人も、とくにパリジャンかな、もう都市に立派なアパルトマンを持っていても仕方ないって、郊外に庭付きの家を買いたいという人が増えてるみたい。ロックダウンの影響だよね。

千住 都市から人がどんどんいなくなりつつあるというか。廃墟のようなね、都市が無人化に向かってるような兆候も感じる。ただ、マンハッタンに仕事上とか、医療の関係でいなきゃいけない人ももちろんいるけれどね。基本的にどんどん廃墟の方向に向かって変わっていってるんだなという気もしているんだよね。

ロックダウンシティ緊急対話「ニューヨークとパリを結ぶ、千住博×辻仁成」



「元通りには戻らない世界で生きるために」

 これから「ニューヨーク」があの元の活気あるニューヨークに戻るまでには大変な道のりが必要でしょうね。

千住 というか、僕は、さっきも言ったけど、同じには戻らない気がしてるんだよね。

 数日前の公開日記でコロナに「終息」はないと書いたんですけど。おそらく、終わりの方の「終息」は難しいでしょう。なんとなく形が落ち着いていく方の「収束」はあるかも知れないけれど。コロナウイルス自体が終息するというのは少なくとも今の時点では全く見えない。

千住 だから、繰り返しになるけれど、ニューノーマルというか、新型コロナっていうのはもうこのまま一緒に生きていくしかないかも知れないんだよね。コロナウイルスは大昔から存在するものなのだから、そもそも人類の歴史はコロナと共に生きる、withコロナ、だったんだよね。

 それでは、世界のリーダーたちにはどういうことを期待しますか?

千住 やっぱり時代が変わったということを人々がきちんと納得しながら、自粛してと言われても自粛しないというのではなく、本当にそうだなと思えるような発言をしていくということで、みんなと一つになれるのが本当のリーダーだと思うんだよね。しかも一番弱者の立場に立って。そういうリーダー像だと、クオモ州知事なんかがそうなんだけど、みんなやっぱり言うこと聞くんだよね。

 なるほど。クオモ知事は州民に人気ありますね。

千住 クオモ州知事の偉いところはね、みんなと共にいる、市民の側にいるというのも一つなんだけど、普段はともかく、こういう時にこそ、ユーモアを忘れないんだよね。ユーモアが今は随所にあって、やっぱりそこがいい。みんなの心をリラックスさせながら一緒に乗り越える。同じ側に立つというのは政治家にとってもアーティストにとっても、みんなに大切なこと。

 フランスは若い政権だけど。問題もあるけど、まあ、一生懸命やるもんだから、ふだん頑固な年配の方々も若い人たちに任せるという空気感が出来つつあるかな。ぼくはこの第一次コロナ大戦が終わった後に、世界の勢力図が変わると思っているんですよね。どういう人たちによって、新しい秩序が生まれるのか、いや、作られるのか、が怖くて、そういうのがぼくの制作にも大きな影響を与えてくると思っている。そこを注意深く見ている状態です。文章を書いたりするには常に先見する目が必要なので、そういうものをインスピレーションとして大事にしたい。千住さんは?

千住 コロナ後という前に、まさに今コロナ真っ最中だから、ここをなんとかしなきゃならない。僕は、去年2019年に高野山の金剛峯寺の襖絵を描いてるんですけど、その時に空海の哲学に随分触れたんですね。この哲学の凄みが今に通じると思ったのは、空海は自然の中にたった一人、個として身を置いて、頭の中の煩悩をリセットしていくという方法論をとるのだけど、そしてその延長線上に解脱というのがあるんだけど、それはともかく、厳しい山岳修行をたった一人で、孤独でやってこそ、宇宙は開かれ、何かを体得していくというその実践を身をもって示した。空海が言いたい事は、孤独や孤立を恐れてはいけない、ということだと思うのね。空海は「同行二人」と言って、あなたには私が一緒にいる。あなたは一人ではない、そういうようなことを言ってるんだよ。四国巡礼の人というのは「同行二人」という言葉を携えてたった一人で四国を巡礼しているんだよね。都会の中の孤独というのもそうなのだけど、まさに「ニューノーマル」という時代に、これはとても大きな心の支えになる。孤独を恐れてはいけない、と。それは孤独ではない。目の前には宇宙が開けているという、そういう空海の考え方っていうのは普遍性のある考え方で、空海の生きた時代も厳しかったけど、そういう時代に生きた人の言葉というのは今、こういう厳しい時代に改めて輝きを増すな。コロナの時代を乗り越えていく、レジリエンスって言うのかな。今は勇気を持って生きていくと言うことが大切だと思うんだよね。

 これから、千住さんの作品にそう言う哲学が入っていくんでしょうね。

千住 そうやって考えると、第一次世界大戦に生まれたのはマルセル・デュシャンの例の「泉」なんだよね。つまり、全く新しい価値観の提示がそこで生まれていた。第二次世界大戦は、ダリやジャコメッティ、エルンスト、マグリットとかの人生と重なるんだよね。彼らは人々の夢の代弁者だった。そう言う風に考えてみるとアートの持つ大切さ、アートが人間の心を代弁していくということの役割の大きさということがわかる。

 人類が大変な時、常に、アートがそこにあったんだ。

千住 ルネッサンスの時代もものすごく疫病が流行った時代だった。その時代にはボッティチェリやダ・ヴィンチがいたし、日本の戦国時代には狩野永徳や長谷川等伯がいた。永徳が描いた四季図というのは一枚の絵の中に四季があって、「春・夏・秋・冬」という全く価値観の違うものが、一枚の絵の中で仲良くハーモニーを奏でている。それが四季図のコンセプトなんだよね。世の中が殺し合いで大変な時代の中で平和のメッセージを永徳が送り続けていたというか。そうやって考えてみて、このコロナの時代、アートに関わる若い人たちも自分がやっている仕事に誇りを持ってやってもらいたい。それは自分にも言い聞かせているところがあるんだけど。やっぱり現在というものを有効に生きてほしい。人生は時間でできていると言った人もいるけれど、今が僕たちの人生そのものだから、アフターコロナを考えるより、今、この日常、ニューノーマルのこの時代を有意義に生きるということを目指したいと思ってますね。

 ところで、今、千住さんはどんな生活を日々おくっているの?

千住 僕の生活で変わった事は、飲みすぎても医者に行くわけにいかないので、お酒はロックダウンと共に一滴も飲んでません。お腹が痛くなったりするとひやっとする。結局、セルフケアの時代が来てると思う。去年までは具合悪くなれば医者に行けばいいと思ってたけど、やはりそれは普遍的な意味で正しくなかった。自分の体を大切にするという当たり前のことに改めて気付かされた。後は、ロックダウンの状況で仕事してるから、その中で余った時間というか、家の中で美術史を学び直してるよ。最近は全然誰にも関係ないけど、鎌倉時代の彫刻史を学んでますね。面白いんだよ。鎌倉の彫刻ってリアリズムなのね、木彫ってリアルに限界があるんだよ。だから、目玉にガラス玉はめ込んだり、着物を着せたりする。髪の毛は実際のものを植えたりする。もはや彫刻じゃないんだよ、これは。人形なんだよね。だから、鎌倉時代にリアリズムの追及の結果、日本人形が生まれてるんだよね。当時の厳しい時代の中で彫刻というものの垣根を越える、境界線を越える新しいジャンルが生まれていったんだよね。鎌倉時代って戦いの時代な訳で、こういう時代の分水嶺はジャンルでも境界線を超えた、全く想定外のユニークなものを生む可能性があるんです。いつコロナにかかっても不思議でない環境に生きてると、やっぱり無駄に生きたくない、と思う。例えば、明日朝起きたら具合悪いかも知れないじゃない。だとしたら、今日読める本が最後の本なんだよ。だから、そう思うと、自分の知識の中で確実に欠落していた部分を埋めたいよね。「今日臨終」っていうすごい言葉があるけど、本当に一日よく生きてよかったと思えるように過ごしている。朝起きた時に具合悪くて、こんなんじゃ死に切れないというような毎日は過ごしたくないかな。感染爆発の中心地に生きてると、どんな怠け者の僕でも、そうなっていくよ。僕はともかくとして、だからこういう厳しい時代、素晴らしいアートが世界中で生まれるのじゃないかって思っている。

 或る意味、古くからの知り合いのぼくらが、この時代、このタイミングで、封鎖されたニューヨークとパリで生きていて、こうやって、強く語れるということの中に、希望があるんじゃないか。そして、何千キロと離れた場所で話しをしているとは思えない近さを感じることができました。まだ、大丈夫だね。千住さん、ぼくらはコロナに分断されないよう、連帯していきましょう。今日は本当にありがとうございました。 

千住 辻さん、一緒に話せて楽しかった。また会いましょう。 



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posted by 辻 仁成