PANORAMA STORIES
ユニークになること Posted on 2017/01/16 美波 女優 パリ
”ユニークな人”っていうと、日本では、面白いとか滑稽な意味合いで捉えられることがほとんどではないだろうか?
フランス語で Tu es unique(ユニークだね)というと、”これはあなたにしか出来ない事だよ、あなたは特別な人だね”という意味をもつ。
12月、ワークショップに参加した。
有名キャスティングディレクター、オリビエ・カルボンが開催するワークショップだけあってこの機会を逃したくなかった。
私はこのワークショップにおいて、3つの壁を越えたかった。
①言葉の壁を全て壊すこと。
②他の役者がコーチからの要求をどう役作りに反映するか観察し、参考にすること。
③最後に一番大事なこと、オリビエに存在を覚えてもらうことだ。
朝の8時から夜の18時まで6日間の特訓。
役者は17人いた。
事前に映画のワンシーンを幾つか渡され、パートナーを変えながら二人一組で演ずる。
私に渡されたのは”トゥルー・ロマンス””Copacabana(フランス映画)” ”エリン・ブロコビッチ””レボリューショナリー・ロード””エヴァの告白”の5つのシーンだった。
衣装とメイクを含め準備に費やせる時間が1週間あった。
映画のワンシーンを演じることは、映画に似せることではない。
私は自分の納得した役作りをしてから向かいたかった。だからどの役も日本の血が入ってる。
自分のアイデンティティを消さない方が、体も素直になる。心に安心感を与えると体も自由がきくのだ。
自分の弱さを認めることも、役作りに必要なポイントだと思う。
ワークショップ当日。朝7時半にはもう劇場に人が集まっている。
私と同じく、トランクやたくさんの荷物を抱えてくる人もいた。
訓練はいつだって8時ぴったりに始まる。一組のペアが舞台上でシーンを演じる。
コーチはそれに対し、役者が最大限”生きる”よう内面に向かってアプローチするのだ。
それぞれのシーンに大体30分、長い時には1時間を要する。一日大体10組のペアの出番が設けられる。
人によって、多い時は2回、当日何も演じることのできない人もいる。
時間のない中、演目の順番を役者同士で決め、衣装、準備そして役への集中を高める必要がある。
そのため、火花が散ることも少なくない。
ワークショップ開催二日目、私は相手役と大喧嘩をした。
1時間以上遅刻した上、衣装もきちんと準備していなかったからだ。そのため私たちの順番は後に回された。
当日はその怒りのエネルギーを後々芝居に利用した。
戦争はあらゆるところで行われていた。
ある日、一人の女優とコーチの怒鳴り合いがあった。口論の末、女優は二度と戻ってこなかった。
彼女が演じるはずのシーンが私に回ってきた。
シャーリーズ・セロンがアカデミー女優賞をとった映画”モンスター”だった。
私とまったくかけ離れている役だ。
私は自分の殻が破れると思い、引き受けた。
週末休みを利用し、準備に励んだ。
セリフ量が多く、役作りも集中的にやろうとしたためか脳みそが筋肉痛になり、知恵熱を出した。
ワークショップも残り二日、まだ青い状態の”モンスター”を胸に、舞台に立った。
コーチは演じている私を途中で止めた。
「今からこれを日本語で演じられる?」
訳がわからなかった。私は即興でセリフを日本語に直し演じた。
すると驚くことに、フランス語では実感できなかった情景が現れ、芝居に自由が効いた。
コーチは私にこの正しい”腹への落とし込みかた”を伝えたかったのだ。
いかにフランス語が自分自身を不自由にしていたのだと見せつけられたようでショックだった。
ワークショップ最終日、新たな芝居の壁を見つけての幕切れになった。
フランス語をフランス人のように実感することはできない。
それは当たり前のこと。だって私は日本で生まれ育ったんだもん。
でもこの不自由が強みになることだって必ずある。
私にしかできないこと。それを必ず表現できる。そう信じ続けたい。
Posted by 美波
美波
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女優。1986年9月22日生まれ、東京出身。2000 年に『バトル・ロワイアル』(深作欣二監督)で映画デビュー。その後、舞台・映画・ドラマと幅広く活躍している。’14年には文化庁の新進芸術家海外研修制度のメンバーに選ばれ、パリに1年間演劇留学。現在はパリに拠点をおき、多方面で活動している。
2017年11月9日(木)~28日(火)/Bunkamuraシアターコクーン・地方にて、演出・串田和美の『24番地の桜の園』に出演。